―62―>清水登之日記の研究 ――15年戦争期を中心に――?日本近代における美術の受容と創造 ――仏教美術再評価と近代日本画への影響――研 究 者:(財)大川美術館 学芸員 春 原 史 寛画家・清水登之(1887〜1945)の活動全般については、清水の生地である栃木県の栃木県立美術館が特に回顧展(1996年)などで検証を行い、その概要については明らかになりつつあり、作品についての評価も行われ始めている。戦前のニューヨーク、パリで活躍し、戦中は従軍画家として戦争記録画の制作に携わった清水の活動は、アメリカ、フランスに渡った日本人画家たちの活動の一端を知る重要な手がかりとなる。また、戦中の日本の戦争記録画に関する検証にも多くの示唆を与えてくれるものと期待される。しかしながら、彼の行動や視点を直裁に示す日記の調査は未だ十分とはいえず、基礎的な資料として研究されるべきと考える。今回の調査では、十五年戦争期の日記に注目する。記述を精読し、行動などが整理された詳細な年譜の制作を行う。また作品と日記中の記述の関連性についても整理を行う。さらに彼が所属していた団体(特に軍関連のものが多い)、接触した画家などの記述から、それらの団体、個人に関する事項についても派生した調査を行い、従来不詳もしくは看過されていた事項について、新たに更新できることが予測される。特に戦争記録画の制作過程や、軍部と画家との関連、また清水という一画家の戦争に対する率直な視点について、記述に注目したい。これらの検証が行われることが、清水登之研究の基礎資料となり、さらに同時代の美術研究についての調査の助けになると考える。また、今後実施予定の、清水の戦争期以前の日記の調査の足がかりともなるであろう。研 究 者:学習院大学大学院 人文科学研究科 博士後期課程 三 上 美 和本申請研究は、申請者のこれまでの実証的な研究を踏まえ、仏教美術の再評価がいかに社会に浸透し、それらがどのように近代日本画の制作に影響を与えたのかを分析することを通じ、近代における美術鑑賞(受容)と作品制作(創造)が渾然一体となり近代美術史を織り成す様を実証的に明らかにするものである。近年、美術史研究の在り方自体を見直す動きが活発になり、美術作品の社会背景を
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