―64―A大宋屏風研究 ――宮中儀式に用いられた屏風の制作と使用・画題の分析――われわれの生活に息づく茶道の中で、オリジナルの分散とその模倣が繰り返され、実体がつかみにくいのが現状である。一方、山形県櫛引町の黒川能、奈良県の金春座、岐阜県関市の春日神社など、中世に神事能や祭礼能などが盛んに行われた地域に伝存する能装束の中には、大陸から輸入された当時布帛の形態、あるいは権力者たちから拝領したその時に仕立てられた形態が残されている。これらの裂の中にはデザインと風合いの点において極めて特徴的な布帛が含まれる。その広がりは、中世の書画に使用される表装裂や戦国武将の衣料、室町時代に活躍した僧侶の袈裟にも見られることから、ある特定時期に日本にまとまって輸入されたことを想定させる。これらの製作時期や産地を特定し、輸入形態やルートを追究することは、中世日本における経済史や交易史研究において意義あるものとなろう。中国歴代王朝の墓から発掘された裂類は、日本の伝来裂とは異なり、製作年代や地域をある程度特定できる。それらの裂と日本への舶載裂とを比較することによって、従来、日本の技術不足という理由で漠然と中国産とされてきた染織の、具体的な製作時期と産地が明らかにされるであろう。また、中国や朝鮮の博物館施設に保管されている伝来裂の糸賀や組織、文様を比較することによって、舶載裂の製作時期や産地が推定される。その上で、中世文書に表れた能装束の記録や、日中交易を記録した文書に含まれる染織の言説などと照合を行い、舶載された時代や地域に関して文献からの裏付けが可能となる。輸入に携わった主体やルートを調査することによって、中世日本における舶載裂の受容と伝播の様相が解明されよう。能装束の形で現代に遺されることとなった染織は、日本中世に生活文化と深く関わりながら伝播し受容されていった、舶載裂における交易史を実証する上での、重要な資料として新たに価値付けられるのである。研 究 者:社団法人霞会館 資料展示委員会 学芸員 吉 田 さち子近世絵画史における京都御所内の絵画の研究は障壁画を題材とするものが多く、近年は特に寛政度造営・安政度造営など、大規模な建築プロジェクトのなかでの絵師選定の過程から、画壇の勢力地図を描く試みが盛んである。つまりは第一線の絵師が投入される特別な機会として御所の絵画制作が注目されているわけだが、もとより御所
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