―67―Dカラヴァッジオの《少年》像の研究代から17世紀初頭はとりわけオスマン帝国との緊張が高まった時代であった。申請者はこの歴史的背景に着目し、オスマン帝国という共通の克服すべき目標を掲げ、ルドルフ2世を中心としたヒエラルキーを構築し、共通の「敵」のためにキリスト教国家内の「他者」との協働を目指すという本著作の制作意図を考察する。一方、「他者」の統治を表象することはまさに、ハプスブルク家のヴンダー・カマーに代表される蒐集活動の主な目的であった。申請者は、皇帝の蒐集に貢献した人物ヤーコポ、及びオクタビオ・ストラーダ父子が、『神と人間の象徴』の原型となる図像及び基本的な構成を考案したことに注目する。そこで本研究は、万物を蒐集し、インプレーザ図像制作の着想源とする、蒐集とイメージの生産の関係に着目し、王権表象の一過程を従来指摘のない具体的な経緯に基づいて考察する。また事物を蒐集し、具体的なコンセプトの中で提示するヴンダー・カマーの機能は、現代の博物館の前段階の姿を紹介するという意義を併せ持つ。さらに本研究は、これまで重要性が指摘されつつも本格的に研究されていない本著作を対象とすることから、ルドルフ2世宮廷の視覚的な権力表象研究の中で極めて重要な価値を持ち、調査過程において幅広い観点で分析することにより、美術史のみならず、政治史、宗教史、自然科学史など幅広く学術的な貢献をなすものである。研 究 者:東北大学大学院 文学研究科 博士課程後期 加 藤 奈保子なぜ、カラヴァッジオは、その画歴の初期において繰り返し少年ばかりを描いたのか。そして、官能的な少年と精緻に描かれた花や果物の組み合わせは何を意味するのか。一見すると風俗画のようなカラヴァッジオの少年像をめぐって、これまでの研究者は、カトリック教会の教義あるいは同時代の文学作品を典拠として多様な解釈を提示してきた。これに対して、本研究が立脚するのは、画家に絵画を委嘱したパトロンたちの美術コレクションにおけるカラヴァッジオ絵画の位置づけから少年像の意味を捉え直す立場であり、これは、より同時代的な画家の視覚経験に注目した視点でもある。近年の研究動向によると、画家と関係が深かったデル・モンテ家、ジュスティニアーニ家、マッテイ家が所有した美術コレクションの再構成が試みられつつあるが、カラヴァッジオの少年像との関連性について具体的に論じられたものは少ない。これ
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