鹿島美術研究 年報第22号
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―69―俵屋宗達の水墨画研究 ――主題と技法の関係を中心に――これまでの段階でなされた考察は、日本で三段階とも発表され、そして現地イタリアでも最初の二段階の考察結果について発表されている。つまりこれらの研究はいずれイタリアの美術史界に対しても発表される予定であり、ささやかながらも、我が国から本場にその意義を問う野心的な研究の一つとなるものと言うことができる。(ちなみに、第一段階がイタリアにおいて『Sviluppo Sommerso』(ボローニャ大学出版局)として刊行され、第二段階が同社から『Due Volti dell’Anamorfosi』として刊行されている。後者は(財)鹿島美術財団からの助成を受けた研究をもとにしているので、奥付に明記してある。)研 究 者:東北大学大学院 文学研究科 博士課程後期  齋 藤 千 穂本調査研究では、俵屋宗達における水墨とモチーフの関係について考察をおこなう。俵屋宗達の水墨画の題材の大部分は身近な動植物と道釈人物である。このモチーフの持つ意味と水墨という技法の関係について、宗達が伝統的な技法である水墨をどのように理解し、受容したのか、題材の選択の背景に着目して、調査研究をおこなう。本調査研究の意義は、俵屋宗達における描かれた内容と技法の相関について考察することにあると考える。申請者は蓮池水禽図(京都国立博物館)を中心に、調査研究をおこなう。本調査研究はこの蓮池水禽図における三態の蓮とカイツブリというモチーフとその組み合わせについて、文学・芸能資料などから当時の人々の持っていたこのモチーフのイメージについて調査をおこない、さらに工芸品などとの比較分析をおこなうことで、モチーフの持つイメージやその需要について考察する。また、俵屋宗達の水墨画は、牧谿や中国画、中世水墨画の影響が指摘されており、特に本図は牧谿の影響が注目されている。茶会記や日記資料などから当時の水墨画の理解と評価、またその需要について調査をおこない、俵屋宗達の水墨画理解と受容の背景について考察をおこなう。以上のように、蓮池水禽図にみられるような独自のモチーフ選択と水墨について、蓮池水禽図を中心に、宗達の水墨画のモチーフのイメージと水墨画の理解を同時代の文化資料や需要から調査し、宗達の水墨画の制作と需要について考えていく。そこか

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