鹿島美術研究 年報第22号
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―70―統一新羅時代礼拝像の機能とその意味についての研究ら、宗達における主題と水墨という技法の相関と、その背景にある絵画制作における宗達個人と社会の関係の解明を試みることに本調査研究の価値があると考える。以上の考察によって、蓮池水禽図を中心に俵屋宗達の作品がどのような場を舞台に制作されたのか、元和期における宗達の絵画制作の背景の一端を明らかにすることにつながると考える。――仏教彫刻に現れた香炉を手がかりにして――研 究 者:東北大学大学院 文学研究科 博士課程後期  池   江 伊統一新羅時代の仏像についての研究には主に図像および様式からのアプローチと、制作背景、目的の解明に中心を置いた美術社会史的なアプローチとがある。申請者は後者の側面から仏像の役割と制作意義を明らかにすることに重点を置いている。したがって、本調査研究の目的もこのような研究目標の一つである。そして具体的には、仏像の台座または香炉を持っている供養者を素材にして、その仏像の実際の仏教信仰における機能と役割が何かを明らかにすることが目的である。統一新羅時代の仏像には、まだ尊名とその制作理由について不明である仏像が多いが、香炉または供養者の表現から制作の意味をある程度推定可能な作品は多数伝えられている。仏像に香炉が表された理由はまだ明確にわからないが、これは記念的な意味として制作された仏像というよりは個人的祈願によって制作、使用されたことを端的に伝えるものであると考えられる。したがって、香炉の存在によってその仏像の機能を礼拝用として推定し、礼拝のために制作された仏像の尊名とその安置場所を調べることで、当時の仏像制作者の信仰目的と仏教儀礼・儀式での像の役割を明らかにすることが可能であると考える。本研究の意義はこれまで注目しなかった仏像の香炉を手がかりにして礼拝者と仏像との有機的関係を探ることである。また、香炉を置香炉と柄香炉に区分して、それぞれの具体的な形態を明らかにすることは、これまで進められてこなかった統一新羅時代の香炉についての工芸史的な側面からの研究としても意味があると思われる。さらに、現存する作例が多い中国の仏像の台座に表現された香炉と舎利具の形態区分と仏像の尊名との関係データを集成する点と、これに基づいてやはり統一新羅時代の台座

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