―77―H平安時代の美術における、占星術信仰と陰陽道の影響についてDVDの制作の実現を目指し、「亀甲文」に込められているであろう意味や機能の分析いたと考えるのが申請者の現段階での立場だからである。つまり、所依経典を求めることで、その堂宇の成立過程の一端が明らかになると考えるのである。以上のように、本研究ではのこされた実物の研究と文献史料とを総合して東大寺の成立過程を解き明かそうとするものであり、その成果は他の研究者にも必ずや資するものと信ずる。――「応徳涅槃図」を中心に――研 究 者:お茶の水女子大学 比較日本学研究センター 助教授日本に現存する最古の涅槃図として、またその類い希な美しさや技術から「応徳涅槃図」は多くの研究の対象となってきた。中でも、有賀祥隆氏、泉武夫氏の最近の研究や、2004年4月に東京国立博物館で発表された、東京文化財研究所による光学的調査の結果によって、この作品の技術的、歴史的背景についての多くの情報を得ることができた。こうした研究成果をふまえつつ、この研究では「調査研究の要約」に示したように、特殊な方法論でもって、「応徳涅槃図」を陰陽道と占星術的な概念という新しい視点の下に置いて見直すことを目的とする。その時代の信仰と「科学」の粋を集めた「応徳涅槃図」は、仏教絵画という厳密な枠に収まらず、白河上皇の宮廷に特有の他の思潮も反映していたと考えられる。当時の占星術的概念の大きな影響や、陰陽師たちの重要な役割をふまえると、製作の背景だけでなく形式的、図像学的な面からみても、この作品が、宮廷の趣味と関心事に直接結びつけていると思われる点に着目したい。この作品を実際観察してみても、また膨大な先行研究や、撮影技術から得られる新しいデータからも、作品の空間構成や図像学的な観点から見て、仏教的、道教的、風景的、そして占星術的な意味の層の重なりが存在し、またこれらが対立することなく、逆に調和していることを感じざるを得ない。フランス語による図録やをもとに、「応徳涅槃図」と庭園や宮廷の芸術、墓や舎利容器の装飾との関係性を再構築したいと思う。そして、11世紀末に盛んだった占星術への信仰に着目し、こうした信仰がとりわけ星曼荼羅の図像を通して、いかに「応徳涅槃図」に影響を与えたのシュワルツ・アレナレス ロール(Schwartz-Arenales Laure)
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