鹿島美術研究 年報第22号
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―82―M比叡山延暦寺における仏像、仏画安置状況の復元――現存作品の悉皆調査による現状確認と史料・古写真探索による記録上の復元―― 研 究 者:大津市歴史博物館 主任学芸員  寺 島 典 人本研究では、比叡山延暦寺に現存している仏像、仏画の悉皆調査による現状確認と、史料・古写真探索によって、かつて安置されていた仏像、仏画の安置状況の復元を試み、日本全国に影響を与えた天台美術の源に関する新たな情報の探索を行うことを目的としている。おもな手法として、①比叡山延暦寺内に現在伝来している未調査の仏像、仏画の調査研究②叡山文庫や各寺院に伝来する、堂社や仏像に関する未公刊の史料の探索、③比叡山延暦寺を写す古写真の探索、などの方法でアプローチを試みる。比叡山延暦寺は、最澄による開創以来、約千二百年にわたり日本仏教の中心地の一つとして興隆してきたが、度重なる派閥争いや焼き討ちなどによる堂舎の消滅などによりその歴史ほど十分に文化財が伝存していない。そのような状況の中、美術史方面からの比叡山に伝存する仏像、仏画、仏教美術に関係する史料の調査研究が未だ十分になされてなく、比叡山研究が他宗にくらべて遅れているのが現状である。かつて、昭和30年代に、文化財保護委員会や京都新聞社などにより、大規模な調査が行われたが、時代の制約上、全ての堂舎、寺院を隈なく調査できたわけではなかったらしく、その後、滋賀県や大津市、各個人研究者によりその都度調査が行われているが、その全容を明らかにするには至っていない。しかしながら、近年、文化財公開の風潮が進み、幸運にも比叡山においても、管理部や各住職に文化財調査に対する理解が深まっている。まさに、仏像調査にはかつて無い好条件がそろいつつあると言えよう。そのような中で、本研究では、比叡山内(山上諸堂ならびに里坊、支院など約70カ寺)や安楽律派など、かつての延暦寺末寺に今なお研究者の目に触れることなく現存する仏教美術の調査研究、そして叡山文庫や、青蓮院(吉水蔵)、三千院(円融蔵)、西教寺(正教蔵)、日光輪王寺(日光天海蔵)などかつて延暦寺と直結していた各天台寺院、比叡山の堂舎や安置仏について記した史料に関して、今まで美術史研究者にあまり注目を浴びてこなかった史料の発掘、さらに、昔の比叡山延暦寺山内や堂舎内を撮影した古写真の収集などにより、現在いまだ明確にされていない、天台宗総本山

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