―13―洋美術分野は国立新美術館設立準備室の宮島綾子氏が財団賞受賞者に決定しました。また、優秀者には、それぞれの分野から文化庁美術工芸課の増記隆介氏、東京大学大学院総合文化研究科博士課程の金沢百枝氏が選ばれました。財団賞の選考理由については、有賀委員と私がそれぞれの分野の選考理由を執筆しましたので、ここで読み上げさせていただきます。宮島綾子 「プッサンとその周辺のフランス人画家における古代受容の一様相」1524年からローマで研鑚を積んだ画家プッサンの研究は、欧米の高名な研究者はもとより日本の研究者たちによって進められ、かなりの成果を収めている。1994年に欧米各地で開催された画家生誕400年を記念する大回顧展やシンポジウム、1996年の画家の全素描カタログの刊行以降、その研究熱は一段と高まっている。古代美術の受容の問題は、プッサン研究の重要なテーマでありつづけているが、第10回鹿島美術財団賞受賞論文も同様のテーマを扱ったものであったことは記憶に真新しい。宮島綾子さんは、プッサンのローマ滞在初期作品《バッコスの養育》に描かれた山羊に乗る幼児バッコスとその背後から支えるニンフの図像に着目する。その図像は、画家がローマで見ることのできた紀元前1世紀のカメオや石棺浮き彫りに刻まれた豹、あるいは羊に乗る幼児バッコスと後から支えるニンフから着想を得たもので、プッサンによって乗る動物が山羊に変えられたのであるとする。宮島さんはその推察を裏づけるものとして、プッサンとほぼ同時期にローマに滞在し、プッサンと親交のあった2人のフランス人画家、ジャン・ルメールによる2点の同主題絵画と、ジャック・ステラによる2点の《聖家族》とそれからの銅版画とを検討する。ルメールがプッサンとアトリエを共有していた時期の作品である同主題画には、別の古代彫刻からの引用もあり、古代受容がより鮮明に認められるため、ルメールは山羊に乗る幼児バッコスとニンフの図像を引用しただけでなく、その典拠である古代作品をも知っていたに違いないとする。一方、ステラの《聖家族》では、プッサンのその図像が子羊に乗る幼児キリストと背後からそれを支える聖母へと転用されていることを説得力をもって指摘する。プッサンひとりにとどまらず、同時期にローマに滞在したフランス画家による古代受容の一端を垣間見せた研究成果は、さらなる発展性のある研究方向を開くものとし
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