―16―のように出会い、ひとつの型を形成するに至ったのだろうか。本発表では、まず第一にマエスタス・ドミニの展開を簡単に概観したあと、天地創造場面にマエスタス・ドミニが移入されていく過程を追跡する。とくに、11世紀後半以降多く描かれた「ローマ型」と呼ばれる創世記図像の系統に着目したい。第二に、円型枠という枠組みが写本挿絵やモニュメンタルな美術に導入されていくにあたって、円環図の図像学的系譜を概観する。つまり、古代世界由来の舗床モザイクやエマーユなど装飾芸術の影響、風配図や四季図・獣帯図など、修道院にあまねく流布していた教科書の概念図の影響について考察する。最後に、天地創造場面を描写する際、イニシャル装飾ではなく、あえて円形枠を選択することにどのような意味があったのか、当時の創世記解釈やアウグスティヌスの時間論を傍証としつつ、以下のような仮説を提示したい。創世記冒頭のIN PRINCIPIO(はじめに)のIやINという文字内に、天地創造の六日間の物語を描くイニシャル装飾では、描写空間が文字内に限定されるため必然的に、Iの文字の上か下から物語が始まり、どちらかで終わるという、一方向的な描写になる。一方、円形枠の場合、円という構造上、始めも終わりも特定する必要のない時間概念が描写可能になる。ひとつは、四季の移り変わりのような反復的・回帰的な時間概念であり、もうひとつは、始めや終わりという時間経過が存在しない、「瞬間」という時間概念である。「天地創造型マエスタス」は「世界の瞬間的創造」というアウグスティヌス由来の創世記解釈を表現するために、最も適しているといえよう。マンドルラ様の円形枠によって創造主の中心性を強調し、天地創造の六日間のすべての出来事を創造主から等位置に配置できる円形枠によって六日間の等価性が意識されて、はじめて、「瞬間」という時間の描写が可能になったと思われるのである。ものもある。本発表では、このような円環構図をもつ天地創造図を「天地創造型マエスタス」と呼び、図像誕生の背景を探るとともに、その誕生の意義について考察したい。「天地創造型マエスタス」は複数の要素から成っている。①構図の基本を成す円環構図、②マエスタス・ドミニ形式の創造主、③天地創造場面、という三つの要素である。それぞれ個別に発展してきた三要素がど
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