―19― 東京美術講演会典拠を古代美術に求めたと推測できる。彼が直接に参照しえた蓋然性が高い作例として、当時ローマにあったことが想定されるカメオ(ナポリ国立博物館)と、バッコスの石棺(ミュンヘン、古代彫刻館)を指摘する。次に、このプッサンの「ニンフに支えられながら山羊に乗る幼いバッコス」と、ルメール、ステラの作品との図像的な関連を検討する。1996年のスタンドリングの論考をはじめとするいくつかの先行研究は、プッサンのバッコスの図像が、1630年頃に描かれたルメールの2点の神話画、および1650年頃に描かれたステラの2点の聖家族の絵に転用された可能性を指摘している。本発表では、この見解を踏襲しつつ、もう一歩踏み込んで、ルメールとステラによるこの図像借用の動機について、考察を進めたい。すなわち、発表者は、両画家ともプッサンのバッコスが古代に依拠することをよく理解していたからこそ、自らの絵にそれを採り入れるに及んだのではないかと考える。この仮説を、ルメールの場合には1630年代のローマの美術愛好家たちにおける古代美術志向に、ステラの場合には1640年代から50年代のパリの画壇におけるそれに照らしながら、検証する。本年度の東京美術講演会は『ほんものとにせもの−偽物・模作・複製−』を総合テーマとして、高階秀爾・大原美術館館長の司会により、以下の通り実施された。日 時:2005年10月18日場 所:鹿島建設KIビル 大会議室出席者:約130名講 演: ①「西洋の古文献と作品から見た偽物・模作・複製の再考」②「中国絵画:模本か?偽作か?擬古作か?いや真跡か?」③「日本近世絵画の真偽−私の経験を通して−」なお、この美術講演会の詳細は、後日、2005年度「東京美術講演会講演録」として刊行される。東京大学大学院人文社会系研究科教授 小佐野重利東京大学大学院人文社会系研究科教授 河野 元昭東京大学東洋文化研究所教授 小川 裕允
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