―30―ことによって、プロヴァンスの文化的土壌とセザンヌの水浴図との関係を浮き彫りにするのが本研究の目的である。研 究 者:宇都宮美術館学芸員このたびの申請研究において、申請者は共同研究者とともに、グラフィックデザイナー杉浦非水がその活動を盛んにしていた1920年代のうち、とりわけ1922年から24年にかけてのヨーロッパ留学期の活動を基点として、非水のポスターデザインの造形理念について詳細に検討することを目的としている。とくに、本研究の意義として次の2点が挙げられる。まず、非水に関する調査研究はこれまで展覧会の開催というかたちでなされてきたが、それらはいずれも代表的な作品の展示や非水の大まかな経歴の紹介のレベルにとどまるきらいがあった。このような既往の研究の現状を踏まえて、本研究では、研究対象をヨーロッパ留学期前後に明確に絞ったうえで、当時の作品の調査観察とともに、日記や書簡類など非水の活動を詳細に検証していくために欠かすことのできない重要な史料をあわせて実証的かつ複眼的な視座によって研究を進めることによって、非水の活動をより精緻に跡づけることができる。また、このたびの申請研究のテーマであるヨーロッパ留学期を中心とした1920年代の非水研究は、同時代の日本におけるポスターの受容という問題を考える上でも重要な研究になる。今回の研究対象となる1920年代初頭は、第1次世界大戦時の戦争ポスターが日本に持ち込まれ、新聞社主催によるポスター展が次々と開催され、メディアとしてのポスターが一般的に広く認知されはじめた時期であった。1924年1月の帰国時に、当時人気を博していたポスター作家である非水が持ち帰った約300点のポスターコレクションについても、美術雑誌の記事や展示会等で一般に公開され、大きな話題を呼んだ形跡がある。したがって、非水のポスターコレクションの全体像を明らかにすることは、当然のことながら、非水のポスターデザインの造形理念を検討するうえでも不可欠であると同時に、当時、ポスターというメディアが、ジャーナリズムや展覧会を通じて、一般の観客にどのような受容のされ方をしたのかという検証する点においても、きわめて重要な示唆を与えるものと考える。前村 文博② 杉浦非水のポスターデザイン――1920年代を中心に――
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