―33―研 究 者:東北大学大学院国際文化研究科博士後期課程本研究は、ハイドの手紙、ゲストブックなどほとんど未着手の一次資料を調査することによって、彼女の日本滞在の軌跡と活動や交流を検証し、ハイドの日本関連作品の制作背景を明らかにすることを、まず、第一の目的とする。そして、その調査と、ハイドが制作した日本関連の作品の分析や作品に対する新聞・雑誌の批評など受容の考察を交差させることによって、ハイドとジャポニスムを多面的に検証していくという構想を抱いている。アメリカのジャポニスムについては、ラフカディオ・ハーンなど文学やティファニーなど工芸の研究に比して、絵画・版画の分野では未だ十分には行われていない状況である。日本では、フェノロサや岡倉天心研究から派生したラ・ファージ研究や、美術教育という視点からのアーサー・ウェズリー・ダウの研究が端緒についたところであるが、ハイドやバーサー・ラムに至っては、日米共に掘り下げた研究は進められていない。また、人的交流から制作現場の状況までハイドの日本体験の再構成をめざす研究は、主題やモチーフの分析、その影響を分析するジャポニスム美術の研究とは視点を異にするものであり、アメリカのジャポニスム研究の美術分野に新知見をもたらすことが期待できる。次に、日本に滞在した外国人女性版画家であるハイドの交流を調査することにより、日本で展開された美術をめぐる外国人ネットワークの実態を明らかにできるという点に意義がある。社交生活が活発なハイドの人的交流や作品の所蔵者を調査することによって、外国人同士の交流とそれに交差する日本人の文化交流、人脈で、新たなつながりを見出すことができるのではないかと想定している。ハイドが日本に滞在した時代は、お雇い外国人が華々しく活躍した時期の後の時代であり、本研究は、お雇い外国人の研究でも空白となっていた時代の文化交流史を補完するものとなりうる。さらに、ハイドは女性美術家であり、ジェンダーの視点を取り入れながら女性を機軸に展開された交流を検証することによって、文化交流史の新たな水脈を堀り起こせるのではないかと考えている。石川 香織⑤ ヘレン・ハイドの日本
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