鹿島美術研究 年報第23号
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―34―el gusto moderno, Madrid, Alianza Editorial, 2002に展開された明解な理論―18世紀のス村 井 蓉 子⑥ フランシスコ・ゴヤの初期宗教画の分析――アウラ・デイ修道院附属教会壁画を中心に――研 究 者:マドリード・コンプルテンセ大学大学院美術史学科博士課程後期フランシスコ・ゴヤによって描かれたアウラ・デイ修道院の教会壁画やその他の初期宗教画の調査は、宗教画家としてのゴヤの技術そして影響を受けた後期バロック様式やロココ様式の表現への分析に止まるものではない。申請者のマドリード・コンプルテンセ大学大学院(旧名マドリード大学)博士課程での博士論文のテーマは、ゴヤにおける女性像と大衆性との関連はどうか、そして後に画家個人に芽生えたアイロニックな思想が如何に女性像に現れえたのか、を分析するものである。初期のサラゴサ時代から晩年のボルドーまで、ゴヤの描いた女性像は膨大な数である。つまり研究対象を女性像に限ることによって、その時々に作品に表れた画家の視点、変化、創造したものを総体的に女性像において考察することが可能となる。このような分析において重要なことは、その当時の社会的な事実(たとえば実際の婦人たちの生活)や、18世紀中葉のゴヤを取り巻く美術界の状況である。その時代は、後期バロック様式やロココ主義様式に変わり、ラファエル・メングスの来西により、新古典主義がスペイン宮廷に台頭していく。アカデミーの設立により、アカデミスムが徹底され、相変わらず理論的には歴史画のテーマが上位をしめるなかで、後世に‘革命的な画家’のイメージが生まれたゴヤではあるが、当然ながら、若い時代にも宮廷画家になった後も画家として様々な制約や美的統制を受けていたことを申請者は重要と考えている。もちろんコンプルテンセ大学のボサール教授(申請者の指導教授)の『イマッヘン・デ・ゴヤ』Imagen de Goya, Barcelona, Editorial Lumen, 1983や『ゴヤと近代の嗜好』Goya yペイン社会のひとつの側面とも考えられる「大衆性への嗜好」とゴヤの作品(特に版画作品)との関連性を提起した論文―は、ゴヤの芸術的特質を提示するものである。それゆえに、美術界の状況と大衆的なるものへの嗜好の相反する二つの流れの中で、ゴヤの根底にあった視点を問うことは意義のあることと考える。申請者は、ゴヤは画家として時代を媒介した者であり、その概念の根底には、アイロニックな捉え方があったと推察する。それならば、この画家のアイロニックな見方はいつ頃から現われは

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