―37―さらに画家カリエルギスの個人様式を特徴付け、同時代の周辺地域の聖堂壁画と比較考察しようとする本研究は、より広い範囲のマケドニア地方やセルビアに残るミカエル・アストラパスとエウティキオスというような画家名のわかる後期ビザンティン聖堂壁画研究にとってもまた、資料的価値の高いケーススタディーとなるであろう。研 究 者:和歌山県立近代美術館学芸員原田直次郎に関しては、《騎龍観音》あるいは《靴屋の阿爺》といった特に重要な作品については個別の論考もいくつか発表され、研究が進みつつある。しかしながら、その作品や資料全般について整理、紹介されたことはこれまでにない。確かに《騎龍観音》は近代日本の美術を考える上でも鍵となる作品のひとつである。だが、その意味を読み解いていくためにも一度作者の全体像を把握することは必要ではないだろうか。本研究では、まず原田の作品と資料の基礎的な調査を行い、その活動の全体を整理することを目的とする。新たに紹介できる作品を含め、個々の作品については、自身が書いたり送ったりした手紙、密接な関係があった森鴎外の言説、当時の新聞、雑誌などの文献資料との比較も当然行う。ここでまとめられたデータは原田自身の作品はもちろん、明治中期の洋画を論じていくためのひとつの基盤となるはずである。さらにその上で、自身が開いた画塾「鐘美館」に通っていた和田英作、小林万古、伊藤快彦らがその影響下で描いた作品なども考慮に入れつつ、作風の特徴を再検討するとともに、日本で原田が目指したことを考察してみたい。それにより、明治20年代の重要な美術の動向が明らかになるとともに、その後の美術史を考える上で、新しい指標が提供できると考えられる。なお調査の過程で見いだすことのできた作品や資料の一部は、可能であれば平成18年秋の開催を目指して準備を進めている「森鴎外と美術」をテーマにした展覧会とそのカタログで紹介したいと考えている。今後、学際的な研究成果を生んでいくことも期待できるだろう。宮本 久宣⑨ 原田直次郎研究――作品と関連資料の整理をふまえて――
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