鹿島美術研究 年報第23号
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―40―研 究 者:西南学院大学文学部専任講師対抗宗教改革期イタリアにおける中世美術の再評価については、プレヴィターリによる考察を嚆矢として、ローマやミラノでの状況を扱った研究がすでに存在する。他方、イタリア中世美術の中心のひとつであったシエナに関しては、ジャンニによる若干の考察を除いては、いまだ十分に掘り下げられていない。同地におけるいにしえの聖像の再評価が重要な意義をもつのは、次の二つの理由からである。第一に、この現象が、1555年におけるシエナ共和国滅亡、およびそれに続くフィレンツェによる支配という特殊な状況と深く結びついていたためである。政治的自由を失った市民たちは、いにしえのイコンを崇拝することで、それが制作された共和国時代の栄光をノスタルジックに回願し、シエナ人としてのアイデンティティや団結を象徴的に確保していたと考えられるのである。そして第二に、中世の美術品の中でも、シエナを代表する二人の聖者、聖ベルナルディーノと聖女カテリーナが生前に篤く崇拝していたという伝承のある絵画や彫刻が、特に市民の関心を惹いたためである。ここでは、聖像崇拝と聖者崇拝という、対抗宗教改革の二つの基本方針が緊密に結びついているのみならず、町の平和を聖者に祈願するという、先に見た政治的状況とも深い関係にある市民の願望を見出すことができる。16世紀後半のシエナにおける政治と宗教と芸術が織りなす特異な文脈に注目することで、イタリア戦争と宗教改革という二つの騒乱に翻弄された近世初期イタリアの文化史的状況一般についても、さらに理解を深めることができるだろう。研 究 者:武蔵大学非常勤講師本調査研究は、日本の中世・近世の「子どもの肖像画」について、①今後の研究に必要不可欠となる基礎的データの収集、②個々の作品研究をふまえた、肖像画全体における位置付けの解明、③日本の〈子ども史〉研究という視角からの歴史学的考察、以上の点を目的とするものである。近年の肖像画研究は、図版集的な書籍や研究書の相次ぐ刊行など、めざましい進展齋 藤 研一松原 知生⑫ 16世紀シエナにおける中世美術の再受容⑬ 日本中世・近世の「子どもの肖像画」研究

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