鹿島美術研究 年報第23号
62/102

―45―トゥール作品の先行例として挙げられるのは、ジャック・ドゥ・ベランジュやジャック・カロなど、いずれもロレーヌの作家であり、また、《ヴィエル弾き》の主題には地域性があるとの指摘もあることから、まず、この地域性を把握することから始める。さらに、ヴィエル弾きが盲人であることにも注目し、「盲目」の図像学を追求し、ラ・トゥール作品との意味のつながりの有無を検討する。その上で、この主題が繰り返し描かれた背景について、慈善を目的とする同信会や兄弟会、慈善施設に関する記録、勅令などを調査し、ラ・トゥール作品の注文主となりえた施設、人物について検討を進めていきたい。本研究における《ヴィエル弾き》の意味の解明と注文主、観者の属性の推定は、ラ・トゥールの画業の新しい一側面を示唆することとなるだろう。さらに、ラ・トゥール作品の同時代性と特異性の考察は、将来、ラ・トゥール研究を超えて、これまで個別的にしか解釈されてこなかった、カラッチ、ル・ナン、セバスティアン・ブルドン、リベラやムリーリョなどにおける、同時代の貧者を描いた作品の意味や位置付けに「慈善」の観点から言及する、大きなテーマの研究に発展しうると思われる。――マックス・エルンストを中心に――研 究 者:九州大学大学院人文科学府博士後期課程本研究の目的は、40年代初頭のアメリカで同時期に頻出したグリッドによる画面構成を、シュルレアリスムと抽象の双方から比較考察することによって、モダニズム的絵画の「平面性」の議論のためだけでなく、より広い文脈でその機能を検討することである。本研究は、シュルレアリスム研究の側から言えば、運動の行き詰まりが決定的となった時代として、これまで等閑視されがちだった40年代シュルレアリスムの視覚表現を再考するという意義がある。近年、亡命シュルレアリストとアメリカの若き芸術家たちの影響関係が論じられることも増えたが、そこでは、30年代末から40年代初頭の亡命シュルレアリストたちが、思想的影響というよりも、オートマティスムやドリッピングなどのテクニックの面で若い芸術家たちにヒントを与え、やがてそれが抽象表現主義という新たな芸術のあり方へと乗り越えられていくといった図式が根強く定着石井 祐子⑱ 1940年代初頭アメリカにおけるシュルレアリスムと抽象

元のページ  ../index.html#62

このブックを見る