―46―している。本研究では、とくにグリッドに着目することで、そのような流れに一石を投じ、「シュルレアリスム」や「抽象表現主義」といった枠組み自体をも再考する契機となるような議論をしたいと考えている。また、以上の調査研究で、申請者が注目するコラージュとグリッドのかかわりが明らかにされれば、エルンストのコラージュをめぐる問題の射程を押し広げることが可能となる。コラージュの技法、あるいはコラージュにおける「並置」や「異化」の手法は、近年の人類学研究や一部の美術研究の領域のなかで、シュルレアリスム解釈の最も根幹に据えられるものであるが、申請者が本研究で行おうとするエルンストの40年代的コラージュの考察は、グリッドとコラージュを手法とする20世紀後半の視覚文化の一形態を、広い文脈から据え直す一契機となるはずである。研 究 者:神戸市小磯記念美術館学芸員完成してから迎賓館の2階正面壁に飾られ続けていたこの壁画が、1999(平成11)年と、2002(平成14)年の2回、神戸の小磯記念美術館に貸し出された。1度目は震災復興への寄与と市民の励ましを目的として、また、2度目は記念美術館の開館10周年を記念した回顧展覧会にあわせてのことであり、いずれも迎賓館側の格別の措置と言えるが、門外不出であった小磯の代表作品が特別貸し出された意義は、美術愛好家にとっても、研究者にとっても大きいと思われる。当記念美術館等での再々展示の予定はないものの、毎年抽選により特別公開もされている迎賓館において、最も重要な位置にあるこの壁画への一般の関心は高く、本腰を入れた調査・研究が望まれている。小磯良平は、西洋絵画の伝統を歴史の浅い日本の洋画に取り入れることを、若い頃からの念願としてきた。その画業の集大成が、独自の光の表現が示されるこの《絵画・音楽》と言えよう。小磯が西洋から学びつつ晩年の精力を傾注したこの大作の実際を明らかにし、その美術史的意義を問うこの研究は、日本の近代美術史の一側面にも意味のある照明を与えるものだと思われる。廣田 生馬⑲ 小磯良平の迎賓館壁画《絵画・音楽》の創作経緯とその画面構築について
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