鹿島美術研究 年報第23号
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―61―?棟方志功の初期油彩画について@『レオン960年の聖書』対観表の福音書記者表現について研 究 者:宮城県美術館上席主任研究員棟方志功はゴッホの作品に衝撃をうけて油彩画家をめざしたが、なかなか作品が認められず、木版に転じて版画家として大成した。油彩画家への道を断念したものの、版画制作と並行しながら晩年まで油絵の筆をとり続けている。これまでの棟方研究では、木版画に転ずる以前の油彩は習作とみなされ、後年の油彩は版画家の余技とみなされて評価の外に置かれてきた。しかし、油彩画はこの画家の創作活動の原点であり、生涯を通して創作への衝動をもち続けた「日本の油絵」は、もうひとつのライフワークとして見直されるべきものと考える。棟方の油彩画は、作品研究の定本となっている『棟方志功全集』(講談杜刊)にも網羅されておらず、作品集、展覧会図録等に未掲載の作品が数多く現存している。申請者は、先年企画した展覧会における版画作品の調査の過程で、これまで未紹介だった作品を含む戦前期の油彩画の所在を確認し、その重要性を再認識した。本研究は、これらの戦前期に描かれた油彩画群を対象として、棟方の作品形成における意義を検証するとともに、この画家が語る「日本の油絵」という観点から洋画史上の位置付けを試みるものである。有名な言辞によってゴッホヘの傾倒ばかりが語られてきたが、初期の油彩には、セザンヌやマテイス、そして「日本の油絵」の先達として棟方が名を挙げている萬鉄五郎、関根正二、村山槐多らの作品研究の跡が見受けられる。独学で油絵を学んだこの画家が、何を手本に、どのように「日本の油絵」を追求していたのかを、この調査研究では具体的な作例を示して明らかにする。作家自身の著作も数多く、またさまざまな評伝が書かれており、棟方研究は言葉が作品に先行してきたことは否めない。棟方志功の画家としての出発点を作品によって検証する意義は大きいと思われる。研 究 者:早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程『960年の聖書』は、5点のフロンティスピス、92点の旧約聖書挿絵と、対観表、4三上 満良毛塚実江子

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