鹿島美術研究 年報第23号
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―63―B初期水墨画の研究――瀬戸内地域の仏画を中心に――(Social System)を究明して、市民社会に仏教視覚文化の受容の原因と方法を研究す(Interdisciplinary)方法も使う。特に高宗、武周の時代断面に仏教の彼岸世界と初唐立過程、様式特徴を追究する。さらに、初唐社会にふさわしい仏教視覚文化の机制る。初唐長安、洛陽を中心にできた仏教造形は経典として、東アジアに幅広く受容されたので東アジア国々の仏教造形の交流、特に奈良時代から平安時代にかけて仏教造形の様式原型(Prototype)にとって意義がある。本調査研究は資料、方法論、学問の価値がある。1)資料の価値:初唐時代仏教造形に関する基本資料を系統的に現地調査して、整理したカタロゴは資料としての利用価値はきわめて高いと思う。特に在銘金銅、石仏像は珍しい資料である。2)方法論の価値:本研究は伝統美術史学の図像学と様式論を基本方法に、近年新美術史(New Art History)に提唱する視覚文化(Visual Culture)理論と総合学科社会、亡者の追福と生者の懺悔霊の再生と肉体の埋葬、男性を中心の儒教価値体系の変化と女性の仏教救う諸対立要素の相互作用から当時の仏教視覚文化を立体に示す。3)学問の価値:本調査研究に確認した初唐仏像の基準作は北魏から唐代にかけて仏像の編年に価値がある。しかも、初唐仏教造形の研究は東アジア中世仏教芸術史に価値がある。なぜならば、初唐様式は中央様式として、中央と地方様式の伝播、交流に意義がある。研 究 者:立畠 敦子初期水墨画は、15世紀に確立した山水画に至る前段階の稚拙な山水図や道釈人物画のなかの一尊像でしかない尊像、また高僧の余技的な作品であるという認識が先行している。また禅宗との関わりの中で制作されたという非常に偏った枠組みの中でとらえられてきたといえる。たとえ経典に説かれた儀軌に基づき描かれた濃彩の尊像であっても、禅僧の賛があるだけで、仏画の賛者と賛者の宗教的地位の方に研究の重点が置かれ、尊像そのものについての考察は深くなされていない。尊像の図様を同時代の作品や前後の時代の作品と比較検討するオーソドックスな研究方法は初期水墨画にも用いられるべきであり、仏画の特質や時代性を述べるには欠かせない過程である。

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