鹿島美術研究 年報第23号
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―64―C釈迦十六善神像の図像についての研究――南都系を中心として――日本は常に中国から請来された文物の影響を受けてきた。鎌倉仏画はそうした宋画の影響をうけ、理知的な顔貌表現・寒色を多く用いたと言われる。初期水墨画の尊像の図様を丹念に比較し明らかにしていくことで、作例の乏しい元になった元画の図様、表現の類推もできるのである。瀬戸内地域は、まさにこうした宋元画といった当時最新の文物が往来する最先端の地域である。当地域には新図様を考えるうえ重要である元代の白描普賢菩薩像といった中国請来の稀少な作品や朝鮮時代とされる寒山拾得図などが伝来する。香川常徳寺の涅槃変相図は図像の検討から広く国内に流布した新様の図像のひとつということが判明し、請来された仏画の画像をもとに制作されたと考えられる。また、京都長福寺、福井本覚寺本、大阪叡福寺本といった寺院のネットワークを考える上でも重要な作品である。瀬戸内地域は京都や鎌倉といった中央ではなく、中央に至るまでの重要な拠点たる地方である。瀬戸内地域において伝来作品を考えることは、地域性や中央と地方という社会構造など多角的な視点から、請来仏画の様々な要素を複層的にとりいれ製作された初期水墨画についての新たな知見を得ることができると考える。研 究 者:奈良県教育委員会事務局 文化財保存課主査釈迦十六善神像は大般若会の広がりと共に盛んに描かれ、鎌倉時代以降の仏画では仏涅槃図と並んで全国的に遺品が多い主題である。しかし現在までほぼ特定の作例しか研究対象とされておらず、涅槃図に比べれば研究が遅れていることが否めない。釈迦十六善神像の研究では、法会と関わる図像の成立過程とその系統の発生や流通伝播の仕組みが重要な主題となるはずである。本研究ではまず画中に描かれた諸尊の図像の把握と変化を代表的作例から捉えることとする。中世以降の釈迦十六善神を見ると図像の共通するものが多く、その中には聖衆来迎寺本や園城寺本、法起寺本などの中世の諸本に見られる図像がそのまま転写されている例がしばしば認められる。これら各図像の系統的整理を行うことで全国的に流布し遺品の多い釈迦十六善神像の研究に貢献できると考えている。さらに本研究を元に諸図像の成立過程について明らかにしたい。その解明は近世諸佐藤 大

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