鹿島美術研究 年報第23号
89/102

―72―F東城鉦太郎と日露戦争についてた描写と滑らかに塗り重ねたマティエールを特徴とする。後期様式に関しては、コニスビー(1985)らが同時期の古典主義傾向からの影響や歴史画的造形を、漠然とではあるが示唆している。シャルダンの様式は、このように多様な側面を併せ持つ。その画業を通じて、17世紀ネーデルラント絵画が重要な役割を果たしたことは確かであるが、そのネーデルラント性は決して一面的には捉えられず、差異化が図られていることが推測されるのである。そこで本研究は、同時代の静物画受容からシャルダン作品に光を当てることにより、画業形成の論理を詳細に考察することを目的とする。本研究の意義は、シャルダン作品を含んだコレクションを包括的に再構成することにより、インスピレーションソースとして想定される画家や作品に対する評価、流通状況が具体的なものとなり、シャルダン芸術の特質が新たな角度から照射されることにある。さらに、仮説の段階ではあるが、申請者が新たに造形上の類縁に着目して影響関係を検討している17世紀フランスの静物画との接点も具体的に探りたい。上記作業と平行して、必要となる作品調査も現地にて行う。また18世紀は、美術愛好家が著しく増加していたばかりでなく、サロン展及び美術批評が活発化した時代であり、ディドロやラ・フォン・ド・サンティエンヌらを始め、本来低ジャンルであった静物画や風俗画を格上げするかのような論調が見られる。サロン批評及び芸術家事典や美術理綸書に再検討を加え、コレクションとの関係を考察することによって、ネーデルラント趣味の諸相もより具体的になるだろう。研 究 者:早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程本研究の目的は以下の通りである。1、東城鉦太郎まず、東城鉦太郎についてのより詳細な情報の提示が挙げられる。東城の基礎的研究は不足しており、特に代表作《三笠艦橋…》をめぐる状況を解明することは、今後の画家理解に大きく寄与するだろう。2、軍部と従軍画家向後恵里子

元のページ  ../index.html#89

このブックを見る