鹿島美術研究 年報第23号
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―73―G異国を見る眼――朝鮮通信使にまつわる絵画を通した日韓比較文化研究――日露戦争に際して多くの従軍画家が行動しているのだが、日清戦争や昭和期の戦争に比較すると分析が大幅に不足している。東城の従軍経緯を調査し、軍部の背景を解明することで、おのずと他の従軍画家やその背景も明らかになると思われる。3、日露戦争の視覚イメージ日露戦争期には、きわめて多くの視覚媒体が作成され、日露戦争のイメージを作り出していた。しかし、個別の媒体ごとの研究はなされているが、包括的に論じたものは少ない。本研究は、東城という一人の画家の活動を中心にすえることで、日露戦争の視覚表現の全体像を視野に人れるための媒体を横断した視点を提供したい。4、日露戦争期の戦争画観資料の散逸のため、また日露戦争という主題自体が等閑視されてきたため、当該期の戦争画については十分な検証がなされていない。しかし戦争画の歴史を考える上で、日露戦争期もまた考察されねばならない時代であろう。東城の活動を支え、もしくは反対した戦争画観について明らかにする予定である。5、20世紀初頭の美術と社会以上の目的の論考をふまえ、当時における美術と社会をめぐる状況の一端を明らかにしたい。当時は文展開設前夜であり、多彩な画派・画会が活動していた。日露戦争という社会的事象、また東城という省みられることの少なかった画家を通して、当時の状況を理解する新しい視座を獲得したいと考えている。研 究 者:広島大学大学院社会科学研究科博士課程後期今日、美術史学の領域では、「異文化理解」に関する研究が盛んになりつつある。歴史上のある共同体(民族、国家)が、他の共同体(民族、国家)をどのように価値づけ、評価してきたかという問題を、様々な時代において明らかにしようとする試みである。ある共同体の外から現われる、いわゆる「他者」の問題を扱う研究である。「他者」イメージは多くの場合、自国民のアイデンティティーの裏返しとなっていることが明らかになりつつある。すなわち異民族や異文化のイメージは、自らの属する共同体の様々な問題の反映として現われることが知られている。申請者は、日本と韓国の文化交流の歴史から、近世の外交使節団である「朝鮮通信尹芝惠

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