鹿島美術研究 年報第23号
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―76―J日本美術における「書物」のモティーフについても即さず、形象の性質そのものを解明し、それが画面上で果たす機能を明らかにすることに主眼を置く。その際、「絵文字」という新たな概念装置を設定し、その枠組みのもとでポロック作品を中心とした1940年代のアメリカ絵画における形象に対し、新たな考察を加える。実際この時期ニューヨークの美術界では、「絵文字」が流行し、ゴットリーブの「ピクトグラフ・シリーズ」を筆頭に、絵文字的表象がさかんに描かれている。ポロックも先史の絵文字を模したモティーフを数多く描いた。ニューマンもまた1947年に「表意文字の絵画 Ideographic Picture」というタイトルの展覧会を組織するなど、当時の絵文字への関心の高さと、そこに画家たちが何か新しい表象システムを見出そうとしていたことがうかがえる。こうした現象を詳細に分析、考察することにより、抽象表現主義における形象の独自な機能を明らかにすることが本研究の目的である。これまで抽象/具象の二項対立の中で看過されてきた形象の性質それ自体を、「絵文字」を通じて新たに捉えなおそうとする本研究の試みは、今後モダン・アートにおける形象をより精緻に読み解くための一助ともなるだろう。研 究 者:明知大学校非常勤講師お茶の水女子大学博士(人文科学)許朝鮮における「書物」モティーフはその造形的特徴および文化的アイデンティティーと関わり、美術研究においてかなり比重が置かれてきた。特に冊架図と呼ばれる画題は中国の「古董書画趣味」にその起源をおき、18世紀後半から盛んに好まれた。その普及においては「書物」のもつ象徴性、すなわち教育および勉学といった意味が早くから認められ、特に22代王、正祖は「冊架図」の製作を積極的に推し進め、さらに絵のなかの書物の題箋まで『経史子集』や『荘子』に書き込むように指定した。19世紀に入ってから「冊架図」はいわゆる「文字図」と結合する様相で移行するが、この際の多くが、儒教の道徳規範としてソンビ(文人)の徳目でもあった「孝」、「悌」、「忠」、「信」、「礼」、「義」、「恥」など、儒教的倫理観を圧縮した文字を絵画的に加えたものである。このことは、日本の「書物」モティーフの固有性を自ずと浮き彫りにする。恩珠

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