鹿島美術研究 年報第24号
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―16―−11世紀スペイン写本の転換−」(Mozárabe)美術の衰退と、それにかわるロマネスク美術の台頭、普及として顕在化団授賞式ならびに2006年「美術に関する調査研究」助成者への助成金贈呈式に引き続いて、財団賞受賞者とそれに次ぐ優秀者である計5名の研究者により次の要旨の発表が行われた。発表者:早稲田大学大学院 文学研究科 博士後期課程 久 米 順 子される。本発表では、サン・ミリャン・デ・ラ・コゴーリャ修道院(ラ・リオハ地方)由来の写本挿絵を対象とし、モサラベおよびロマネスクの両美術を通じて重要な位置を占めていた写本芸術がどのようにこの転換期を迎えたのかという問題を論じてみたい。考察対象を同修道院に限定するのは、10世紀以降13世紀までイベリア半島でも有数の大スクリプトリウム(写本工房)を擁していたこと、およびスペインの修道院の中では例外的に、その蔵書がかなりまとまって今日まで伝わっているためである。典礼の移行に伴い、11世紀の後半から1100年ごろにかけて、それまで用いられていた半島独自の西ゴート書体が廃止され、フランスで発展したカロリング書体が新たに採用された。したがって大局的には、イスパニア典礼用テキスト−西ゴート書体−モサラベ様式の挿絵ローマ典礼用テキスト−カロリング書体−ロマネスク様式の挿絵イベリア半島のキリスト教諸王国では、11世紀にイスパニア典礼からローマ典礼への切り替えが行われた。ヨーロッパ史の視点からすればグレゴリウス改革の一端と位置づけられるこの出来事は、しかし、北スペインの政治、社会、文化にはかり知れない影響を及ぼした。端的に言えば、この時代に北スペインの「ヨーロッパ化」が始まったのである。美術の上では、この変化は、半島独自の様式であったいわゆるモサラベ↓研究発表者の発表要旨「サン・ミリャン・デ・ラ・コゴーリャ修道院スクリプトリウム研究

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