鹿島美術研究 年報第24号
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―17―という二項対立的な図式が成り立つが、実際にコゴーリャ修道院の装飾写本を見ていくと、書体や装飾様式は複雑に入り混じっている。例えば、西ゴート書体の写本にロマネスク様式によるイニシャルが描き足された作例が数点ある一方で、10世紀のイスパニア写本の伝統に忠実な例も、1073年制作の《リベル・コミクス》のように、かなり時代が下るまで見出せるのである。発表者は、こうした写本制作上の混乱には、コゴーリャの修道院長と周辺諸王国の支配者との関係、クリュニー会やローマ教皇の動向など、同修道院を取り巻く社会的政治的環境が反映されているのではないかと考え、写本の添書きや修道院関連文書などを手がかりとしながら、個々の作例を検証していく。そのように同修道院由来写本の時系列的分析を行うと、半島北部の諸キリスト教国王ならびにその篤い庇護を受けていたコゴーリャの修道院長は、新典礼・書体・美術様式の導入に積極的であったことが確かめられる。それに対して、一部修道士たちの間には、改革に対する拒絶反応と、改革への反動としてのイスパニア伝統回帰という現象が見られるのである。この二派の対立と葛藤は半世紀にわたって続いた。コゴーリャ修道院制作の写本がロマネスク様式への移行を遂げるまでには、ほぼ二世代にわたる写字生・挿絵師の交代を要したのである。「唐代山水画の主題に関する研究−樹石画を中心に−」発表者:黒川古文化研究所 研究員 竹 浪   遠描いたものなど様々な主題が確認できた。本発表では、このうち樹石画、特にその中心であった松石図に焦点を当て、詩と現存作品の双方から考察したい。樹石画に関する唐詩は20首以上に及ぶ。盛唐に現れ、中唐以降に多く、『歴代名画唐時代は、盛唐における「山水の変」や中唐における樹石画の流行など、山水画が大きく発展を遂げた時代である。けれども、現存作品が限られ、画論類にも詳細な記述は多くないため、なお不明な点が少なくない。一方、唐詩の中には絵画に言及するものが多数みられ、貴重な情報を与えてくれる。今回、総集である『全唐詩』を通読したところ、山水画に関する詩を百数十首検出することができ、神仙山水や実際の地方を

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