―22― 東京美術講演会■美術講演会講演録刊行「ほんものとにせもの−偽物、模作、複製−」ている。そしてこちらは、「ミケランジェロ対ラファエッロ」という当時の批評の構図を表していると考えられる。なぜなら前景のアポロはもともと、ミケランジェロが描いたシスティーナ礼拝堂天井壁画の青年裸体像のポーズを引用したものだからだ。原画を描いたブロンズィーノはミケランジェロのみを引用したが、ヴェネツィア人サヌートによるこの版画には、ラファエッロという新たな美学上の基準が付け足されたというわけだ。「複製」における原画の改変は、少々奇異に思えるかもしれないが、当時のエクフラシスに目を向けてみるならば、批評や君主の称揚を織りまぜながら原作を記述することは自然なことだった。サヌートの制作態度の背景には、こうした修辞学の形式の存在があったと考えられる。サヌートは複製版画であることを十分に利用しながら、宮廷美術のコンテクストに沿って当時の美意識を表現したと言える。複製であると同時に版画家の創作でもある本作は、当時における複製版画のあり方、あるいは版画と批評との関係を知る上で興味深い一例となろう。本年度の東京美術講演会は『琳派300年の魅惑』を総合テーマとして河野元昭・秋田県立近代美術館館長の司会により、以下の通り、実施された。日 時:2006年10月13日■場 所:鹿島建設KIビル 大会議室出席者:約130名講 演:①「琳派の絵画−金と銀、そして色」②「琳派の工芸−カナサーシップ−」東京芸術大学美術学部教授 竹内 順一なお、この美術講演会の詳細は、後日、2006年度「東京美術講演会講演録」として刊行される。2005年10月18日 鹿島KIビル 大会議室学習院大学文学部教授 小林 忠
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