―32―シャルダンの初期人物画を考察するにあたって障害となっているのは、アカデミー主催の展覧会がいまだ軌道に乗っていなかったことや、展覧会の出品作に対する批評が未成熟であったことに由来する、当時の資料の少なさである。よって、1730年代のシャルダンの作品は、限られた文書資料を基礎としつつ、同時代の他の画家の作品からアプローチしていくことが必要と考える。シャルダンが初期人物画期に盛んに制作したのは、遊ぶ子どもの姿であった。子どもは通常一人で、上半身のみクローズアップされ、確固とした存在感を持って描かれている。これまで、シャルダンの初期人物画には、17世紀オランダ・フランドル絵画、とりわけテニールスの影響があることが多くの詳細な研究で明らかにされてきた。一方で、シャルダンの遊ぶ子どもの絵は、描かれる人数や構図などに関して、北方の先行作例とは著しい相違点があることも指摘されている。「シャルダンは、子どもを大きなスケールで捉えたフランスで初めての画家」であるとしたスヌップ=レイツマの研究[Snep-Reitsma, 1973, p. 199]はその嚆矢である。こうした研究状況において今後さらに必要となってくるのは、シャルダンの初期人物画の成立過程を、18世紀フランスで制作された他の芸術家の作品との関連で検討することであろう。駆け出しの画家シャルダンにとって、より手近に制作のヒントを得られるとしたら、同じくパリで活躍する現役の画家たちからであったろうことは想像に難くない。こうした観点からシャルダンの作品を考察することは、同時代の芸術家たちの交流がより活発に行われていた可能性を具体的に示すこととなり、彼がどのような環境の中で制作していたかを一層明らかにすることができる。シャルダン作品に見られる同時代の芸術家との図像上の影響関係については、これまでにもいくつか指摘されてきた。しかし、いまだ部分的なものにとどまっており、十分とは言いがたい。申請者は歴史画家や肖像画家を含め、パリで活躍した幾人かの画家や彫刻家とシャルダンとの繋がりを検討する。また、それと並行して、18世紀フランスにおいて子どもはどのように絵画化されていたのか、幅広く作例を観察したい。研 究 者:学習院大学大学院 人文科学研究科 博士後期課程 藤 元 裕 二③ 南朝方諸勢力周辺における詫磨派絵仏師の動向に関する研究
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