鹿島美術研究 年報第24号
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―33―申請者の調査研究は、詫磨派の筆と考え得る作品を発見していくこと、そしてその作品を文献資料に基づき位置づけを行っていくことが基本となる。その上で、詫磨派に関する実証的な知見を示す予定である。具体的には、今まで詫磨派の範疇で捉えられてこなかった作品について調査を実施し、再度詫磨派の作として位置づけることが第一となる。それら作品の発掘を行うにあたり、文献資料の調査が欠かせない。なぜならば、14世紀の詫磨派の確認されている作品は、栄賀を除くと極めて少ないからである。同時代資料のみならず、近世・近代の寺院什宝目録や展覧会目録、売立目録なども細かく分析することにより、新たな作例の発掘に努める。なお申請者は大正時代の展覧会目録から新たに詫磨派の作例も発見しており(清浄光寺所蔵「阿弥陀如来像」)、発見の可能性は極めて大きい。また一方で、単純に新しい詫磨派の作例を発見するのみに本研究はとどまらない。あくまで作品の発掘は研究の第一段階であり、それらを綿密に分析し、制作依頼者、施入寺院など制作の周辺を考察することにより、この時代の詫磨派の動向について試案を示す。従来、当該期の同派の具体的研究は少ない。またその一方で、初期土佐派、東福寺明兆流の胎動が始まるなど、この時代は仏画制作を取り巻く環境がダイナミックに変動する時期でもある。古代より続く絵仏師詫磨派が、中世前期から後期へと移りかわるこの時代、いかに活動を行い、そして最終的には姿を消したのか。中世前期的絵仏師が克服できなかった時代の動きとはどのようなものか。一方、「新しい絵師」土佐派や明兆流が台頭する要因も考え得るのである。本研究にて、14世紀の詫磨派の動向について、特に省みられなかった南朝方という視点から捉え直すことにより、混沌としたこの時代の仏画制作と享受の様相、あるいは絵師のダイナミズムの一端が明らかになると考える。―桂ユキ(子)、草間彌生、田中敦子、福島秀子を中心に―研 究 者:一橋大学大学院 言語社会研究科 博士課程後期  中 嶋   泉本研究はまず調査的側面において、上記作家のバイオグラフィ、制作史、作品データ、発表歴などの一次資料の国内外での網羅的収集と整理を行い、資料的価値の高い研究とすることを目指している。理論的側面で美術史的貢献が予測されるものとして、④ 戦後女性作家による抽象画の政治性と象徴性

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