―43―⑭ 奈良仏師と京都仏師―細部形式の検討に基づく平安時代末期から鎌倉時代初期の作品研究―研 究 者:東京芸術大学大学院 美術研究科 博士後期課程 佐々木 あすか本研究では、平安時代末期から鎌倉時代初期、特に12世紀後半を中心とした奈良仏師、京都仏師の作品を取りあげる。平安末期から鎌倉初期は、平安時代後期のいわゆる定朝様から鎌倉新様式へと変化する時期にあたり、多様な仏像が制作された。また奈良仏師、京都仏師(院派、円派)の三派が、この時期にどのような作風展開をしたかについては、特に京都仏師の作品の乏しさゆえに、未だ解明されていない点も多い。奈良仏師、京都仏師それぞれの作風展開及び相互の影響関係を明らかにすることが必要と考える。そこで、この期の作品研究を行う前提として、髻、天冠台、着衣などの細部形式に注目した。細部形式は、時代の傾向や仏師系統の特徴が表れると考えられ、形式の整理、検討を行うことで、制作年代や仏師系統を考察する際の客観的な指標の一つとなると考えるためである。これまでの研究において、すでに裙・腰布の着衣形式の整理分類を行った。その分類では、平安後期(定朝以後)の2つの典型形式を伝統的規範と捉え、それに代わる新形式として12世紀後半に 奈良仏師作品に見る2つの新形式が現れたとした。また、更に■として・ の両要素を持つ形式が指摘でき、奈良仏師以外の仏師の作と考えた。■のように新旧両形式が認められる作品は、まさしくこの期の新時代へと向かう過渡的な様相を示すものと思われる。このように、平安時代後期の定朝様作品を「定朝以来の伝統」として捉え、それに対し、その後の12世紀後半の奈良仏師・京都仏師がいかにして新しい試みを行ったかを、細部形式の観点より具体的に捉えることを試みる。また、形式の分類にとどまらず、なぜその形が各作品に用いられたのかという点について、作風との関係性や背景についても考察するように努める。こうした細部形式の整理、検討を基本とし、改めて両仏師の作品を研究することで、この期の多様な彫刻史の展開を、仏師系統ごとに重層的に考察することができると考える。
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