鹿島美術研究 年報第24号
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―45―研 究 者:関西大学 文学部 非常勤講師  伊 藤   香本研究は、近世大坂画壇の月岡雪鼎とその工房の絵画が、いかなる制作理念のもとに作られ、購買者層へ浸透していったのかという受容の視点を含めて、雪鼎と月岡派の絵画制作の特質を明らかにすることを目的としている。先行研究では、伝記や個々の作品紹介にとどまり、画業の総体的な研究や、雪鼎と月岡派が近世美術史上に果たした役割の考察には至っていない。周知の通り、十二ヶ月図は近世を通じて画派を問わず多くの絵師に描き継がれた、馴染み深い人気の画題である。狩野派や土佐派の絵師らによる作品の制作背景や享受の様相については、近年の研究から明らかになりつつあるが、月岡派をはじめ、近世諸画派の職業絵師が手がけた十二ヶ月図の作例については、図様や主題の典拠の同定にとどまり、どのような造形化の過程をたどったかについては全く不明で、これまで総合的な研究はほとんどなされていない。月岡雪鼎とその工房の十二ヶ月図に照射する本研究は、現在筆者が進めている工房制作という側面からの雪鼎研究の一環であり、また近世における肉筆浮世絵画派の工房制作や受容にまつわる問題を提示している。個々の作品の様式比較に基づく分類作業をおこなうことは、月岡派の工房制作の実態解明への大きな鍵となる。雪鼎と月岡派の活動を検証し、歴史的な意義を与えることは、従来の日本近世美術史が評価の対象から取りこぼしてきた江戸中期の大坂画壇における絵画制作の状況や、受容の解明につながる。月岡雪鼎はその一つの柱となることで、近世絵画史の再検討が可能となると考えられる。―スペイン前衛美術と「スペイン的」なものをめぐって―研 究 者:神戸大学大学院 文化学研究科 博士課程大原美術館 学芸員            孝 岡 睦 子ピカソの《アヴィニヨンの娘たち》(1907年6−7月)は、すでに多くの研究者たちによって様々な検証が行なわれている。それらの中には、この作品をピカソが後にキ⑯ 近世における十二ヶ月図の展開 ―月岡雪鼎の工房と画業の継承を中心に―⑰ パブロ・ピカソ初期作品と伝統

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