―56―工部美術学校画学科女子生徒秋尾園資料の研究『マエスタ』のサイクルの手本を特定することがその最終目的ではなく、霊感源とな対象に包括的な分析を行う。ドゥッチョの物語表現の要となる絵画空間、あるいはそれと結びついた時間的要因を分析の中心とし、これらについて、画家の芸術基盤とされてきたマニエラ・グレカ、及びゴシック的要素とのかかわりを批判的に検討する。った諸要素をドゥッチョがいかに解釈・改変したのかに着目しながら、新しい物語表現の創造のプロセスを詳細に追ってゆく予定である。研 究 者:茨城大学 教育学部 教授 金 子 一 夫未解決となっていた近代美術史及び表象文化史上の以下のような問題を、最近出現した秋尾園資料によって解明する。一工部美術学校の基礎教育課程の具体的内容。同校専門課程の内容は山下りん資料等によって具体的な課題まで判明していた。しかし、同校の基礎課程は科目名のみの判明で、具体的内容は推測のうちにとどまっていた。西洋の絵画教育方法は日本の江戸時代までのそれと違って、基礎教科として幾何学、装飾画、遠近法(透視図法)を置く。工部美術学校も例外ではなく、そのような科目を置いたことが公文書からわかっている。しかし、イタリアのアカデミーの基礎課程と似た内容であったのではないかと推定するのみで、具体的には何をしたのか判明していない。それが秋尾園資料によって明らかにできる。しかも年記が入っているので資料的価値が高い。長沼守敬資料との比較によってイタリアのアカデミーとの異同も検討できると期待している。二工部美術学校女子生徒クラスの様子及び秋尾園の素描の特質。女子クラスの様子は文献で断片的に記されているだけである。秋尾園資料に女子の同級生の様子を描いたらしい素描がある。これによってクラスや制作の具体的状況が推定できる。また、秋尾園は女子では山下りんに次ぐ第二位の成績であったことが知られている。フォンタネージ様式をどの程度消化吸収できたかも判明する。三明治期の幻燈や幻燈機は現物が残っている。国立科学博物館蔵の幻燈機は秋尾の夫である中島待乳が使ったものである。幻燈の下絵等は本来残るはずのない性格のものである。しかし、秋尾園資料にはそれが多数含まれている。それによって幻燈
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