―58―明治初年の「ドキュメンタリー」写真 ―『ザ・ファー・イースト』を中心に―漢代石刻美術における地域的図像研究 ―四川石闕の造営と儒教系図像の受容―研究は、ジャハーンギールの政治的手腕の高さを、一般化しているジャハーンギール像そのものを改めることができると確信している。また広義の意味において、この研究は、アジアのイスラーム政権によるヨーロッパの王権表象の受容の研究でもあり、王権論や東西交流史、あるいはイスラーム・ヨーロッパ関係史のケース・スタディーとしても意義を持っている。研 究 者:横浜美術館 主任学芸員 倉 石 信 乃『ザ・ファー・イースト』を中心とする本調査研究はまず、明治初年という日本社会の大転換期の一端を、写真という当時の先端的な表現媒体・伝達媒体が捉えていた事実に改めて着目することをまず第一の目的とする。さらに、被写体をなるべく事実に即して報道しようとするジャーナリストや写真家の意図について考察を加えることで、西洋近代における「ドキュメンタリズム」が19世紀後半のアジアを舞台としてどのような成立を見たか、その一事例として「日本という場所」を定位したい。また、その一方で『ザ・ファー・イースト』の写真には、西洋的なエキゾティシズムもまた備わっている。ドキュメンタリー性と乖離するというよりは、相補的に働くエキゾティシズムのありようを、個々の写真に即して検証し、ともするとひとしなみに扱われがちな「オリエンタリズム」の重層性に迫りたい。研 究 者:早稲田大学大学院 文学研究科 博士後期課程 楢 山 満 照現存する石闕の総数32点のうち、四川地域には23点もの作例が集中して確認されている。山東省や河南省にもわずかながら石闕の現存作例があるが、四川石闕を特徴づける点は、浮彫の画題の豊富さと、その絵画性にある。とりわけ「周公輔成王」「董永侍父」「荊軻刺秦王」など、儒教的徳目【忠孝の実践】を内包する画題の存在は留意される。従来、それらの図像については、観る者に対する訓戒的要素を期待したもの、あるいは、儒教の賢人に比肩する墓主の道徳的倫理観の表明として説明されてい
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