鹿島美術研究 年報第24号
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―63―?クルト・シュヴィッタースの初期作品、メルツ絵画成立にいたる過程@『百頭女』に見るマックス・エルンストのコラージュの原点MERZ(-BANK)の文字を見いだした、という事実に触れるのみである。彼が当時ど研 究 者:奈良芸術短期大学 講師  嶋 田 宏 司ドイツのダダイスト、クルト・シュヴィッタースの「メルツMERZ」と称されるコラージュやアッサンブラージュの作品は、画面に貼付された廃物が重切されたり、断片に裂かれたり、また混交されて、イメージの思いがけない衝突や意味的葛藤を生み出している。その混沌とした表現の一方で、彼には終生持続する作品形成の意志があり、例えば作品制作の放棄にいたるデュシャンのニヒリスティックなダダイズムとは異なっている。シュヴィッタースのガラクタを芸術作品へと昇華させる作品形成の問題については、多くの研究で取り上げられているが、「メルツ」作品の成立に関しては、いまだ詳細な研究がない。多くの場合、彼が1919年に制作中の画面から偶然に(KOM-)のような制作を目指していたか、また「メルツ」作品とその前後の時期の作品とはいかに関連づけられるか、については明らかになっていない。唯一、I・エーヴィヒがパリのダダ総回顧展(2005.10〜2006.1)のカタログ中で、初期メルツ絵画とその直前の抽象絵画作品との形式的近似について注意をうながしている。シュヴィッタースの初期抽象絵画作品においては、絵画空間を重層化する光線の交錯、幾何学的形式に力動感を与える様々な表現など、全くオリジナルな特質が見い出せる。「メルツ」は、この抽象の画面に対して異質な素材を導入することで成立する。したがって、初期抽象絵画の特質を読みとり、「メルツ」作品との比較を行うならば、彼の前衛的な制作の意義を明らかにすることができる。研 究 者:立命館大学 社会学研究科 博士課程後期  浅 川 朋 美マックス・エルンストの絵画の原点であるコラージュに対して、先行研究では主に個々の作品に対する図像学的な分析が試みられてきたが、デペイズマンの効果を徹底的に追求した作品を解釈することは難解であり、作品中に表される超現実という現実が多義的なものである以上、作品は多様な解釈の可能性を孕み、絶対的な解釈を得る

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