鹿島美術研究 年報第24号
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―66―C満谷国四郎の明治時代における活動について申請者は希望する調査研究助成期間に、ドヴァーラヴァティーの法輪にとりつけられた三尊像の成立、幻獣との組み合わせの過程を明らかにすることを目的とする。本研究は、東南アジアの仏教美術の成立を空間的、時系列的に解明していこうとするところに最も特色があり、独創的な点がある。空間的には、比較対象をインドと東南アジアを結ぶベンガル湾沿に延ばす。かつて東南アジアの文化は、インドの一方的な影響のもとに展開したとされてきたが、現在ではむしろ環タイ湾地域の相互交流を重視する研究者が増え、ドヴァーラヴァティーはその鍵を握る文化として注目されている。本研究はその視点を東南アジアの環タイ湾地域に限るのではなく、ベンガル湾まで延ばし、現ミャンマー、バングラディッシュも含むパーラ朝期美術との相互関係を探ることで、東南アジアにおける大乗仏教およびヒンドゥー教図像の成立プロセスをたどる。時系列的には、ドヴァーラヴァティーの基層文化に応じた礼拝形態の様相がいかなるものだったのかを考察する。申請者はタイの先史遺跡から古代都市遺跡の調査も、これまで行っている。上記の空間的視点からドヴァーラヴァティーの仏教美術成立に関わる基層部分の類似性・差異性が明らかにされる。本研究は古代東南アジアの仏教美術研究のみならず、これまで北伝仏教の中で考察されてきた東アジアの仏教図像の成立と展開についての研究に貢献できると考える。さらに、申請者は現在勤務している九州国立博物館で将来、東南アジア仏教美術の展覧会を開催するため、積極的に東南アジア各地の博物館との交流をはかっている。本研究は将来的に日本における東南アジア美術理解を深める手助けとなるはずである。研 究 者:岡山県立美術館 学芸員  廣 瀬 就 久・意義および価値満谷国四郎の作品に関する網羅的な情報を集めることができ、今後における応用的な研究にあたって有益なデータベースとなる。そして絵画のみならず雑誌掲載挿絵も調査対象としつつ、また周辺の画家たちの動向、あるいは彼らとの交流の諸相を視野に入れることによって、より幅広い見地から、画家の仕事を捉え直すことができる。さらには、絵画と写真が混在していた日露戦争

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