鹿島美術研究 年報第24号
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―68―E伊藤若冲と上方絵本移入した日本の近代彫刻史研究にも成果が反映されると考えている。石膏原型の研究は、鋳造彫刻研究の基礎データとなるものであり、日本国内にも数多く存在するロダンのブロンズ彫刻を再検証するためにも意義のある調査研究であると思える。研 究 者:早稲田大学 第二文学部 助手  新 江 京 子1、絵手本・工芸図案からの影響若冲と同時代、または少し先駆けて多く出版された絵手本や工芸図案が若冲作品に与えた影響を考える。特に、一説には若冲の最初の師匠であるとされながら文献上の繋がりでしか語られて来なかった大岡春卜に注目。春卜の著した多数の絵手本や、彼やその息子による工芸図案集、そして画論が、若冲の画風形成や作画過程を考える上で外せない要素であったことを確認したい。また、橘守国や吉村周山などの画譜についても同様に検討する。2、博物図譜からの影響写生風の表現や珍しい動植物を描くなど、「博物学的」と評される若冲作品であるが、他の博物学資料と具体的に関連付けて考察されることは少ない。博物図譜の分野では常套的に行われる手法や構図などと若冲作品の関連を探り、若冲特有の細密描写や写生的表現、「実物を描く」という製作態度がどのような絵画理念に基づくものかを考察する。3、風俗図絵などからの影響西川祐信の浮世絵本など、これまで若冲とは全く関連付けられなかったジャンルの版本・版画と若冲作品の影響関係について。また、単にモティーフの借用といった利用の仕方に留まらず、広く知られた素材を使うことによって鑑賞者に借用であることが分かるような見立ての趣向を読み解く。それにより、若冲作品や他の版本を「鑑賞の場」という観点から捉え直すことを試みる。上記の項目を通して、まだあまり研究の進んでいない上方絵本自体の調査研究も目標とする。また版本ではないが、近日発見された春卜の肉筆写生図の調査研究も行い、若冲との関連を検討したい。

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