―73―中国・沖縄・ベトナムに見る民衆(版)画の比較図像学的研究についても調査をすすめる必要がある。出版というメディアに注目することでルネサンス人文主義のネットワークを浮かびあがらせたい。価値従来の文化史は、美術、文学、歴史など各分野の成果を統合する形で論じられていた。研究の軸に出版メディアを据える事により、ルネサンス文化についてより具体的なコンテクストの再構成を目指すことができる。構想まず、古代建築の表象、 愛と官能性の表象、■牧歌的風景について、当時流布していたイメージ描写言説を初期刊本から探り、可能な限り書誌学的な統計を取る。ついで、『ヒュプネロトマキア』をはじめ、絵画作品や祝祭等、これらのイメージが交差する場について考察を加える。こうした牧歌的田園イメージの形成については、受容の観点から考察することも必要だろう。イタリア人文主義の重要な著作をフランス語に翻訳したジャン・マルタンはウィトルウィウスの建築書とともに牧歌文学、前述の『ヒュプネロトマキア』などを選択しているが、その契機についても調査する必要がある。―東アジアの居住空間に点綴される画の意味と機能―研 究 者:京都大学大学院 人間・環境学研究科 博士課程 桂 由 起〔意義・価値〕ベトナム・沖縄の民衆(版)画ともに、民衆レベルでの宗教思想や風俗習慣、人的ネットワークについて豊かな情報を包含する興味深い研究対象でありながら、従来その紹介・研究が僅かに止まり、体系化・公的認知が進んでいない現状がある。本申請研究における実地調査によって、一次・二次資料を体系的に収集・整理することができ、後学に資することができる。とりわけ、ベトナム・沖縄・中国それぞれの事例に共通する、画と儀礼との密接な関わりに焦点をあてることにより、冊封体制など、図像の形成と定着に関する政治的側面の関与など、興味深い考察結果が引き出されるものと考えられる。また、中国民衆版画との比較という視点を導入することで、東アジア漢字文化圏における文化・図像交渉の広がりのうちに、これらを位置づけ、その普遍的・個別的な
元のページ ../index.html#90