―13―(日本・東洋美術部門)ロール・シュワルツ−アレナレス(Laure Schwartz-Arenales)「『応徳涅槃図』試論―陰陽道と星辰信仰をめぐる二重のイメージ―」本論文は、仏画の最高傑作といわれる平安時代中期の応徳3年(1086)に描かれた仏涅槃図(「応徳涅槃」について、一般に広く認められている仏教思想にもとづく説話的なイメージとは違った陰陽道の思想なかんずく星辰信仰によるもう一つのイメージが重なっていることを、「応徳涅槃」が制作された白河天皇(1053−1129在位1072−86)治世下の信仰を考慮しながら、モチーフの図像や画面構成を細かく分析し、大胆に解釈を行ったものである。本論文の着想は釈尊の枕頭、北側の沙羅双樹の幹に亀甲文が描かれているのを、陰陽道思想の四神のうち北方に配される亀に蛇が巻きつく玄武に想定したところにある。このダブルイメージの指摘は、例えば釈尊の枕頭に沙羅双樹を挟んで七Gの菩薩と迦葉童子(菩薩)が配置されるが、この配置が北斗七星及び輔星と同じで、しかも白河天皇の生まれた年が天喜元年(1053)癸巳で、巳の本命星は北斗七星の六つ目の武曲で、元神は禄存で、それらの本地仏は地蔵菩薩と普賢菩薩で、したがって武曲(地蔵菩薩)の輔星が迦葉童子となること、また釈尊の実子で弟子の羅Ç羅を朱地の短冊形に「佛子羅雲」と墨書するのも星曼荼羅の九曜の一つとして描かれる雲上の赤い顔の羅Ç星と結びつくこと、さらに岩上に憩う鹿らしき動物も釈尊が最初に説法を行った鹿野苑を想起させるが、巻いた角や体に斑点があることから、鹿ではなく星曼荼羅の十二官の雄羊とみなされることなど、が例として挙げられた。また、優秀者には、それぞれの部門から、東京大学東洋文化研究所准教授の板倉聖哲氏および群馬県立館林美術館主任学芸員の伊藤佳之氏、それに慶応義塾大学大学院文学研究科後期博士課程の諸星妙氏が選ばれました。財団賞の選考理由については、有賀祥隆委員と私がそれぞれの部門の選考理由を執筆しましたので、ここで読み上げさせていただきます。
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