―35―に勝川春朗(葛飾北斎)「江都両国橋夕凉花火之図」の制作年代が、落款から天明初年〜寛政6年(1781−94)頃とされてきたが、図中の花火の形態から天保末年(1840年代)まで下る可能性も検討している。後者については、表題や色、花火の形態の異なる、より初摺に近いバージョンが確認されており、色板を改変し、流行遅れの古様な花火を新型に変えた可能性がある。他の変り摺りの事例を収集することにより、報道的役割をもつ浮世絵が花火の発展にも敏感に反応していたことを示すものと考える。収集の過程で、これらの事例に関わる作品も集め、整理分析を進めるならば、花火の技術史の進展にも美術史的立場から寄与できることと考えている。研 究 者:パリ第一大学大学院 芸術人文科学科 博士課程 太 田 み きロココ様式が花開く当時、装飾画の重要性は否定できないにもかかわらず、建築史と美術史の合間で、どちらからも充分に考察されていない。「芸術のための芸術」を信奉するゴンクール兄弟に「再発見」された18世紀絵画は、造形中心の様式史を経て、現在もなお、意味のない「装飾物」として図式的に捉えられがちであり、16・17世紀の作品と比べて、内容や物語表現に関する研究は深められていない。しかし近年のリヴィジョニズムや制度研究が示すように、太陽王の世紀に対する愛惜によって、伝統的な歴史画の権威や物語性は当時重要な議論の的であった。建築の分野では、用途を特化させた部屋が登場するこの時代に、部屋の性質と装飾の合致を求める建築論が発展する。本研究は従来看過されてきた物語性を効果的に考察できる連作を対象に、18世紀フランスの絵画観の変化、特に物語性と装飾性の関係の変化を実例と理論を通して総合的に考察する新しい試みを目指す。太陽王による絶対王政から革命へと向かう18世紀において、身分制度、慣習、社会的変化が室内装飾と密接な関係を築いていたことを示した重要な研究には、私の指導教官であるD. ラブロ氏の論文やK. スコットの大部な著作などが挙げられる。これらの研究は18世紀の幅広い時代をカバーし、総体を示そうとするものであるが、いずれも建築史からのアプローチであり、装飾画に対する言及は限られている。ロココ時代の絵画における装飾性の重要性は言うまでもない。図像プログラムおよび物語性と空間の性質との関係に関する研究と合わせて考察して初めて、ロココにおける装飾性の⑥ 18世紀フランスにおける連作装飾画に見る絵画観の変化
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