鹿島美術研究 年報第25号
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―37―⑧ 室町期の禅宗社会における女性図像の特色とその社会的受容の研究―中国風俗の女性像を中心に―研 究 者:実践女子大学 文学部 助教実践女子学園香雪記念資料館 学芸員  山 盛 弥 生本研究が主として取り上げる「霊照女図」「魚籃観音図」「馬郎婦観音図」などは、禅林社会で受容されて以降、江戸時代では狩野派などが制作する鑑賞画としても一般化する。これらは先行する中国の図像の影響を受けた、仏教説話をもとにした女性図像であるが、全て若く美しい女性の単独像であった。そのことが作品に対する特定の鑑賞法を促した要因であったことは疑いない。室町時代の鑑賞形態が江戸時代と同質であったかどうかも問われるべきではあるが、女性の単独像を画面に大きく描く、日本の美術史上ごく早い作例として、上記作品の実態と特質を把握することには充分な意義があるものと思われる。さらに当時、大陸文化をいち早く吸収した知識人・文化人の集まる禅宗寺院を中心とした環境で、このような新しい女性図像が作られたことに着目し、禅僧らを中心とした宗教的空間で受容されたことの意味を考察する。研究・考察にあたっては、同時代の禅宗関連の文献資料を中心に調査し、図像に関連する記述を探し、図像の制作背景、鑑賞の実態を具体的に検証する。また、すでに着手している調査によって、禅林文化の拠点のひとつである大徳寺周辺で制作された可能性が高いと考えられる作品群の存在が判明していることから、特に、単独女性像と大徳寺との関連に注目して、文献資料を調査していきたい。また、典拠となった中国の先行図像を探り、日本に請来されて以後、どのように受容・変容されてきたかを具体的な事例に添って考察する。さらに禅宗環境を背景に生まれた女性図像と、「美人画」との関係についても考察を広げたい。女性の美を主な鑑賞の目的とする「美人画」が日本で成立したのは、一般に近世初期とされる。本研究の対象である中国風俗の女性像の制作は、主題的には仏教説話にもとづき、時期的にも「美人画」成立に先立つが、女性を単独で大きく描き、その若さや美しさを描写したとみられる作例が多く、制作目的の一つに女性美の鑑賞があったことをうかがわせるからである。本研究が対象とする女性図像に関する先行研究については、室町期の禅林文化の作品や作家の研究の中で行なわれたものはあるが、女性図像に焦点をあて、網羅的に調

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