鹿島美術研究 年報第25号
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―38―査し、その全体像を捉えようとしたものはない。中国の作例と比較検討した研究も見当たらない。また、禅宗寺院を中心とした環境の中で制作・鑑賞されたことの意味について考察した研究もなされていない。本研究は、これらの点において、独創的で、意義のある研究であると思われる。研 究 者:町田市立国際版画美術館 学芸員  滝 沢 恭 司近年、「北守」の地となった「満州美術」に関する調査研究が進んでいる。それに対して、「南進」の地となった「南洋」と日本近代美術との関係についての美術史研究は、まだ本格的に着手されていないのが現状である。本調査研究は、「南洋」のなかでもかつて「裏南洋」「内南洋」と呼ばれた「南洋群島」に居住または旅行した美術家を可能な限り掘りおこし、渡航の動機、作品の特質、同時代美術との関係を考察することを目的としている。今日、南洋群島行の美術家として知られるのは土方久功、赤松俊子(丸木俊)、川端龍子などに限られているように思われる。このうち土方については既に多くの先行研究があるものの、作品の制作年代や表現内容の分析にまだ不明な点が多い。本研究課題を設定することで、相対的な視点からそれらを見直すことができると考える。また赤松や龍子については、南洋群島行という視点からの調査研究がほとんど進んでいない。こうした知名の画家ですら、である。この研究によって、彼らについてはもちろん、それ以外のこれまで知られることのなかった美術家とその作品についても明らかにすることが可能となる。つまり、「南洋群島の美術」を総合的に明らかにすることが出来、日本近代美術史の空白を埋めることが出来るのである。またこの研究は、日本の美術、そして精神文化の形成に「南」がどのように関与してきたかを考える絶好の機会となることが期待できる。その延長線上に、日本の美術史において、これまであまり話題に上らなかった「南」の問題へと関心が向けられることも期待できる。研 究 者:名古屋大学大学院 文学研究科 博士課程後期  村 松 加奈子⑨「南洋群島」と日本近代美術 ―美術家、作品、美術史形成への関与―⑩ 中世真宗における掛幅絵伝の受容と展開

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