鹿島美術研究 年報第25号
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―39―申請者はこれまでに、中世真宗の指導下で制作された掛幅絵伝、主として「善光寺如来絵伝」「聖徳太子絵伝」「法然上人絵伝」「親鸞聖人絵伝」を対象に、宗派内における掛幅絵伝の受容と展開の諸相をめぐって、絵伝のもつ機能と構造、ある異主題の絵伝の間に見受けられるイメージ交流の諸相について分析を加えてきた。前述のように、従来の美術史研究では、これらは社寺縁起絵や祖師絵伝の枠組から捉えられてきたが、絵伝の伝来状況を鑑みると、同一寺院内においても複数主題の絵伝が伝えられている場合が多く、これらが共通の信仰体系の所産であることが理解される。よって絵伝の分析に当たっては、個別の主題とともに作品間の連動性を重視する、統合的な視座が不可欠となる。今回申請する研究は、これまでに申請者が継続してきた真宗伝来の掛幅絵伝に関する研究成果を基盤に、対象領域を中世真宗における掛幅絵伝全般へと発展し、改めて真宗教団の形成・展開期において、掛幅絵伝が果たした機能と、その受容のあり方を考察するものである。ここでは他分野の関連研究領域(国文学・真宗史学・民俗学など)と相乗した学際的な視座から、真宗伝来の掛幅絵伝の全体像を捉え直し、あらためて中世真宗における掛幅絵伝の受容と展開の実態を解明する。本研究は、以下の4つの観点からの検討を加える。①分析の材料となる図像資料の蒐集と、それを基とした絵画様式の分析②絵伝の図像に託されたイメージの分析と、絵伝の融合の諸相についての考察③伝記・歴史史料等の関連文献の精読④絵解きの宗教儀礼空間についての分析と、絵伝の機能が発揮された空間についての復元的考察。この4つの観点から、絵伝の生成過程と、作品をとりまく宗教的環境について、従来の研究の枠組みを超えた、包括的観点からの掛幅絵伝研究を目指す。本研究の成果は、仏教教団の意図と美術作品の関係を窺う上での、最も実践的かつ具体的な事例研究としての意義を持ち、ひいては中世仏教社会全体において、絵画作品が果たした機能と役割について、新たな観点を提示できるものと考える。モットを導くピットの霊的姿》を中心に―研 究 者:大阪大学大学院 文学研究科 博士後期課程  小 谷 真 弓・調査研究の構想本研究は、《レビヤタンを導くネルソンの霊的姿》と《ベヘモットを導くピットの⑪ ウィリアム・ブレイクの個展 ―《レビヤタンを導くネルソンの霊的姿》と《ベヘ

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