―40―「画家」としての芸術活動の一環であることは明らかであるにも拘わらず、彼が自身⑫ ウフィツィ・ギャラリー東廊下天井画装飾グロテスク文様の図像解釈研究霊的姿》という、二点の作品の図像解釈を通して、個展開催に当たってのブレイクの意図や戦略を明らかにすることを目的としている。それは、美術作品を展覧会で鑑賞することが一般的となりつつあった19世紀初頭のイギリスにおいて、一人の芸術家が、個展という表現手段をどのようにとらえていたのかを、当時の文化的文脈において考察する作業ともなろう。・調査研究の意義ブレイクは、主に、自作の文字テキストに画像を組み合わせた作品で知られている。彼の文章は、難解かつ独特の世界観を表しており、そのため、文章を文学的に解釈することに重点を置く英文学分野での研究がこれまでの大勢であった。その結果、図像は、文章に附された単なる挿絵ととらえられ、テキストの解釈を補強するものとして扱われることが多い。また、ブレイク研究がこのように文学的なものに偏っているのには、ブレイクが原画をもとに銅版画用の原版を彫刻する銅版画師を生業としていて、画家として認められることを生涯欲しながらも、社会的には無名の存在で終わったという事実も起因している。そのため、1809年の個展についても、それがブレイクので作成した作品目録の解読が研究の主で、目録の記述とそれに対応する絵画作品とを対照する作業すらほとんどされていない。1809年の個展を、「展示」という美術活動の一タイプとして考察する本研究は、ブレイクの芸術活動を美術史の流れの中で再評価し、ブレイクの「画家」としての一面を掘り下げることとなる。その点において、本研究は、ブレイク研究においても、18世紀後半から19世紀前半にかけてのイギリス美術史研究においても、その発展に貢献することが可能であると考えている。研 究 者:イタリア国立ピサ大学 美術史学部 客員研究員 和 田 咲 子十六世紀ヨーロッパの宮廷や知識人の間で流行したコレクショニズムを背景に、蒐集品の内容は美術作品のみならず、博物学的関心から集められた事物や、動植物コレクションに至るまで多様であり、それらの展示場所も宮殿やギャラリー、庭園と多岐にわたっていた。
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