鹿島美術研究 年報第25号
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―41―そのコレクション展示空間には、芸術的要素はもちろんのこと、権力や富の顕示空間としての役割が重視されており、本研究の主題となるウフィツィ・ギャラリーは、政治的には弱体であったトスカーナ大公国が、富や権力を誇示するために世界中から集めたコレクションを公開する場として、積極的に建設した空間である。天井画の図像研究を通して、この建築空間が担う社会的・政治的役割と機能を明らかにする本研究では、以下の3点が特に重要な目的となる。1)グロテスク文様の図像解釈:46面あるグロテスク文様を熟覧し、神話主題、工房主題、風景画などの各図像の意味について解釈をおこなう。2)東廊下の天井に描かれたグロテスク文様の図像プログラムとその考案者の調査:一次史料の調査や同時代の関連作品との関係の考察、またフィレンツェにあるメディチ家の他のコレクション展示室との比較などを通して、図像プログラムと考案者の存在の可能性について調査・分析をおこなう。3)コレクション展示室の空間的再構成:蒐集作品と天井画の図像には、予め周到に練られた図像プログラムが存在するという作業仮説に基づき、上記した1)2)の成果を踏まえ、飾られた収集品とそれが設置された場との関連も念頭に置き、考察を深める。上記した3点の目的をもつ研究の結果として、ウフィツィ・ギャラリーの建築空間がコレクション展示室として持つ、文化的・政治的・経済的な意味と機能の全体像が明らかになる。研 究 者:府中市美術館 学芸員  金 子 信 久江戸後期の洋風画は、長らく、鎖国という特異な対外状況の文化的表象として関心が注がれてきた。あるいは、明治から昭和にかけての文芸界における南蛮紅毛趣味なども反映して、近代人の目が捉えた素朴さ、はかなさが賞翫されてきた面も少なからずある。一方、絵画史上では、明治に先立つ西洋画移入の先行例との位置づけにとどまっていた時期が続き、芸術性に視点を置いた研究は、さほど古くから行われてきたわけではない。このことは、同様に外来絵画の受容という成り立ちを持ちながら、外来様式の「変容」や、日本独自の美意識の形成という視点からも研究が深められてき⑬ 安永・天明期を中心とする司馬江漢の画業研究

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