鹿島美術研究 年報第25号
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―44―の最も適切な調査となり、同時代の広告表現に対する理解の進展に重要な貢献が期待できると考える。また、今回は西欧アヴァンギャルド表現の受容に対して焦点を絞った研究を実施するが、1930年代の広告表現の劇的な変化を成立させた要因は複雑である。1930年代の広告表現の研究には、米国で進展していた広告理論(レイアウト概念やマーケティング理論)や広告制作システム(アートディレクション制度や代理店制度)への、日本の広告制作者の認識と受容にかかる考察、さらには全体主義への傾倒の端緒にあるという1930年代の特異な時代性への視野も欠くことは出来ない。申請者は将来的な構想として、こうしたその他の要因の影響についても詳細な検討を行い、1930年代の日本の広告表現の変容を、総合的な視点から考察する予定である。研 究 者:一橋大学大学院 社会学研究科 博士後期課程  田 中   佳本研究は、現在準備中である「ルーヴル宮王立美術館創設計画」という題目の博士論文で着手したテーマを発展させる内容のものである。この博士論文の中では、本研究で扱うダンジヴィレの奨励制作についても論じているが、ここでは注文の経緯と作品の概要の把握に留まっている。この奨励制作の内容は、フランス革命前夜に広く認められる文化的変容や美術様式上の変化に深く関わるものであり、以下のようなさまざまな問題に新しい視点を提示しうる可能性を持つものである。第一に、7年戦争(1756−63)以後に活発となる祖国愛の称揚の潮流との関連である。この戦争の敗北の原因を追究する議論は、フランス軍内部の問題に留まらず、広くフランス人の道徳の問題にまで発展し、祖国愛を軸とした道徳の再建が求められるようになる。これはアカデミー・フランセーズの偉人称賛コンクールに象徴的に現われているが、ダンジヴィレの奨励制作もまた、この文脈に位置づけられる。第二に、フランス革命後に主流となる新古典主義との関係が問題となるだろう。奨励制作を担当した画家の中にはダヴィッドやペイロンといった新古典主義の旗手たちが含まれており、作品の主題にも、後に好まれる古代ローマの歴史や伝説を題材としたものが見られた。その意味では、このダンジヴィレの奨励制作が新古典主義の礎を築いたとも言える。一方で、奨励制作にフランス史の逸話を主題とした作品が含まれ⑯ ダンジヴィレの奨励制作 ―自国史への関心と「フランス派」の形成―

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