鹿島美術研究 年報第25号
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―45――19世紀フランスにおける動物描写と文学・批評―る事実は、新古典主義の予兆では必ずしも説明がつかない。こうした多様な潮流をまとめ、ダンジヴィレが美術館で公衆に示そうとした新しい「フランス派」の内容を検討することは、18世紀後半のフランス美術全体の考察に新しい視点を提供することになると考える。第三に、奨励制作の注文をめぐるダンジヴィレと、その右腕となったアカデミー院長ピエールらの動きを古文書史料を用いながら追跡することは、未だ詳細がはっきりしない18世紀フランスの美術行政の機能の一端を解明することに繋がるだろう。これはアンシァン・レジームの美術のシステム全体を理解する上できわめて有用な、大きな意味を持つ成果であると確信する。研 究 者:川村記念美術館 学芸員  横 山 由紀子《寓話》に描かれる動物には、それまでモローが扱ってきた神話に登場する架空の動物などとは異なり、ラ・フォンテーヌの詩文に呼応する適切な表情・動作で描かれることが要求された。連作のうち、特に動物のみを扱った作品は、実物と異なる誇張された縮尺、奔放な色彩、諧謔的表現など、他のモロー作品には見られない特徴を備えており、これらを分析することによって、画家が動物描写において新たに獲得した視点とその意義を知ることが出来るほか、依頼主との関わり、先行作例の参照や同時代の文字・造形芸術の傾向が制作に及ぼした影響などが明らかになるであろう。また《寓話》と同時期あるいはそれ以降に制作された油彩画には、《寓話》との関連性が窺われるものが散見されるが、本研究では《寓話》連作に属する〈恋するライオン〉の着想が《一角獣》連作へと転用される過程における、図像・背景・構図等の変容に着目し画家の制作理念とその手法を分析する。これに際しては、《寓話》が画家の創意や色彩に対する嗜好を比較的自由に表すことの出来る水彩画で描かれたことに留意し、油彩画の制作に導入された視点を分析することが有効であると思われる。本研究は、神話・聖書の主題において既に自己のスタイルを確立したモローが、晩年の作品群に展開した様式の持つ意味とその背景を探ろうとするものである。⑰ ギュスターヴ・モローによるラ・フォンテーヌの『寓話』連作

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