鹿島美術研究 年報第25号
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い19世紀風景画への道を切り開くことになる。この種の油彩スケッチは、近代の風景―52―;近代美術における茶の湯の研究7−11世紀クメール建築のペディメントとリンテルにおける装飾の形式研究アカデミーが奨励することはあっても、抑止することはなかった。油彩風景スケッチは、アカデミーの反発を買うことなく、その水脈を着実に拡張し、リアリズムの色濃画を特徴づける主題の放棄、地誌的精確さの尊重、自然を前に味わえる新鮮さを先取していたのだった。いまや油彩風景スケッチは、西欧風景画史研究の一分野を確実に形成し、この分野を視野に入れずして、18世紀から19世紀の西欧風景画の展開を説明することは難しくなっている。本研究のテーマとして申請者の選出した、油彩風景スケッチとローマのアカデミーとの関係は、この分野の研究のなかでも「要石」になるものと考えられる。研 究 者:東京藝術大学大学院 美術研究科 博士後期課程  依 田   徹茶道具を「美術」における辺縁領域として捉える時、その経時的変化に「美術」の境界線の変化もまた浮かび上がってくるはずである。その美術的評価の変遷は、主に近代における美術史言説、あるいは文化財制度から読み取ることが出来るだろう。こうした茶道具評価の変遷を探ることで、日本における「美術」構造の一面を浮び上がらせることを試みる。特に明治期から昭和初期にかけて、美術の領域においても千利休が大きく評価を上げているが、小堀遠州との比較論や田代二見の美術論の分析などから、その実態を明らかとしたい。そして、この利休の茶道具を評価するための理論化において、岡倉天心の『茶の本』、またこれに追従した言説が大きな役割を果たしたものと想定している。これは謂わば、近代における美的価値の再生産であり、「美術」とそれを要請する社会との関係を映し出す論題ともなるだろう。―ナーガ装飾の形成過程に焦点を当てて―研 究 者:上智大学大学院 グローバル・スタディーズ研究科 博士後期課程久 保 真紀子

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