―53―江戸時代における『三国志演義』受容作品の挿絵研究〈調査研究の意義・価値〉〈構想〉20世紀初頭以降のフランス人研究者によるクメール美術の様式研究は、周辺地域の美術との詳細な比較は断片的な成果にとどまり、クメール美術を東南アジア全体の歴史の中に位置づけてその展開が論じられたことはない。カンボジアでは、1970−1980年代の情勢悪化により、外国人による現地調査の困難な時代が続いたが、近年は政情が安定するとともに道路の整備や遺跡の保存修復も継続的に行われ、考古学・建築史・美術史各研究が近年大きく進展している。また平成14年度〜16年度科学研究費補助金基盤研究「東南アジア彫刻史における『インド化』の再検討」(代表者 肥塚隆氏)のように、東南アジアの文化をインドや中国の影響を過大に論じるのではなく、東南アジアの地域間の影響の再検討に関心が高まっている。本研究は、ナーガの装飾モチーフの形成過程に焦点を当てて、この問題に取り組もうというものである。本研究では、クメール美術のナーガの装飾モチーフの形式と様式の変遷をまとめることを目的としている。この研究では周辺地域の作品との比較を通して共通性・相違性の解明が中心となるが、これは寺院建築の装飾モチーフを通して周辺地域との交流の痕跡を収集することにもなる。すなわち、本研究によって、クメール文化における外来文化の受容と変容の一過程を明らかにするとともに、東南アジア域内・域外における文化的交流の内実をも読み解くことができると考えられる。研 究 者:東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程 梁 薀 嫻博士論文は「江戸時代における『三国志演義』の受容」をテーマとしている。中国歴史小説『三国志演義』(明、羅貫中作)を題材とする江戸時代の文学作品(「三国志もの」)は文字情報だけではなく、挿絵もテクストの一部として重要な機能を担っているため、挿絵を体系的に研究する必要があると考える。本研究はジャンルの違いで挿絵と文との関係が変わることを主張するものである。その趣旨を『三国志演義』と「三国志もの」テクストの様式について概観しながら、
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