「空間論」としてのマッキントッシュ研究の提示―54―C. R. マッキントッシュにおける壁面デザインの手法論の研究説明してゆきたい。『三国志演義』については、挿絵付き刊本はおよそ30種現存している。これらの挿絵はいずれも優れた版画であるにもかかわらず、小説の付随物として軽視されがちであった。また、挿絵は一冊目にまとめて附けられており、文字テクストと分離している。そして挿絵と文の内容とが一致しない場合がしばしばある。「三国志もの」の多くは草双紙や絵本読本というジャンルに属する。草双紙は紙面全体に挿絵が描かれ、その空白部分に文字を埋めるという形式を取ったジャンルである。文字よりも挿絵が真っ先に読者の目に入る草双紙は、挿絵がテクストの主要な部分として機能している。つまり草双紙においては挿絵が物語の理解に大きな影響力をもつといえる。そして、絵本読本は絵本の性質を持つ読本である。何丁ごとに一図の挿絵が挟まれている。文が主であるが、物語のクライマックスに挿絵が附けられるので、挿絵は物語の主題を変える力がある。以上見たように、「三国志もの」は絵と文との関係が緊密だということが明らかである。以上の違いを意識しながら、絵と文がどのような相互関係にあるのかを重要な問題として取り扱いたい。本研究は文学研究と美術史研究の境界にある分野を切り拓くものとして大変有意義なものである。中国文人絵と日本絵画との関係についての研究は多くなされているが、庶民文化とされる版画や草双紙研究は未開拓の分野である。本研究は、江戸時代「三国志もの」の受容のありようを解明すると同時に、日中版画の交渉の一端を明らかにすることにも寄与するであろう。研 究 者:京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 博士課程後期 マッキントッシュとその作品は、彼の死後、多くの意味付けがなされてきた。N.ペヴスナーによりモダン・デザインを牽引したパイオニアの一人として見なされて以後、約半世紀におよび研究史において主流であり続けたのは、彼個人の様式の変遷・特定に焦点を当てた研究方法である。特にR. ビルクリフ氏による一連の詳細なカタログ製作の業績(Charles Rennie Mackintosh: The Complete Furniture, Furniture Drawings川 口 佳 子
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