鹿島美術研究 年報第25号
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マッキントッシュにおけるジャポニスム研究の促進―55―江蘇省連雲港市孔望山摩崖造像の調査研究& Interior Designs他)は、現在の研究においてなお重要性を持っており、度々版を重ねている。しかしこうした伝統的な研究手法のみでは、トータル・デザインとしての彼の作品に対する理解、および当時のみならず現在も多くの人々の関心を引いて止まない建築空間の受容経験に迫真する研究には繋がらない。マッキントッシュ研究自体が抱える課題とも言える、上記の問題点を解決することを目的として、申請者は以下のような研究を着想した。マッキントッシュの作品を、「様式」的特徴の側面のみでなく、「空間」というより総合的な観点から検証することである。このような、「空間」構成という側面での研究は、上述した通りほとんど存在しないが、プラン(平面)の操作において一つの室内に多様な用途の空間が併設されているという指摘を、ビルクリフ氏の研究の一部に見出すことができる。これに対し本論考は、そうした空間操作を、壁面デザインの中により視覚的に見出すことを構想する。すなわちプランによる建築的な操作のみならず、空間を囲う壁面のデザインにこそ彼の「空間」構成の手法が表れるという視点を初めて提示する点に、本論考の価値がある。本論考の第二の目的・意義はマッキントッシュにおける日本建築の影響を追究することである。彼における日本美術・建築からの影響は、その典拠の特定が困難なために、長く研究の余地が残されてきた。しかし壁面デザインのプロポーションに関しては、とりわけ日本建築の明確な影響が指摘できる。すなわち彼の壁面では、唯美主義やアーツ・アンド・クラフツ運動を含む当時の英国の壁面デザインの潮流に一般的であった、ディドー、フィリング、フリーズの三段の比率よりも、日本建築の真壁構造が示す比率により近いものが採用されている。壁面デザインを体系化する本論考は、こうしたジャポニズム的側面の解明によって、国際的な規模でのマッキントッシュ研究の進展に対し大きく貢献し得るものである。研 究 者:早稲田大学 文学学術院 非常勤講師  金 子 典 正仏教東漸によって東アジアで仏像が最初に登場するのは中国の後漢時代のことである。その際、仏像は具体的にどのように伝えられ、人々は仏像をどのように理解した

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