鹿島美術研究 年報第25号
73/104

―56―徳川美術館蔵「豊国祭礼図屏風」についての研究「三国〜西晋時代の長江下流域に於ける中国早期仏像―神亭壺にみる仏像とその受容のか。今回の調査対象である孔望山摩崖造像は、まさに当時の貴重な作例を含んでおり、いわゆる中国早期仏像と呼ばれる仏教初伝期の仏像に属する。すなわち、本調査研究の目的は、摩崖造像の研究を通して中国における仏像のはじまりを究明することであり、観念的な議論ではなく、調査にもとづく実体をともなった研究成果は、中国の仏像の歴史のみならず、東アジアの仏教受容の解明にも大きく貢献できるところに意義がある。孔望山摩崖造像をはじめとする中国早期仏像は、一般的な礼拝対象としての仏像ではなく、中国固有の神仙世界のなかに登場するところが大きな特徴であり、山東省沂南画像石墓、四川省を中心に出土する揺銭樹、同省の楽山麻皓崖墓、また長江中下流域から出土する銅鏡や神亭壺にもみられることが報告されている。造形的には明らかに仏像と判断できるものから、神仙像と混交したもの、また菩薩や天人像と思しき図像も確認されており、仏教が中国に定着する過程において幾つかのバリエーションが存在していたことが知られている。すなわち、こうした他地域と孔望山摩崖造像の作例とを具に比較検討することも本調査研究の大きな課題であり、総合的見地から複合的考察を行うことにより中国における仏像のはじまりを包括的に論じることができ、ここにも本研究の価値があるといえる。申請者はこれまで「後漢時代中原地域に於ける仏教信仰成立の一様相―中国初期仏像の成立背景として―」(『美術史研究』43、2005年)、「中国仏教初伝期に於ける仏像受容の実態に関する一考察―仏像付揺銭樹の視座から―」(『美術史』160、2006年)、を中心に―」(『仏教芸術』で現在査読中)という三編の論考を作成し、すでに中原地域、四川地域、江南地域における早期仏像の考察を行っている。これに今回の孔望山摩崖造像の調査研究によって沿岸地域が加わり、文献が伝える中原〜彭城〜下$〜江南という後漢〜三国時代の仏教信仰のラインについて、より具体的な考察が可能となる。そして最後にそれまでの研究成果を全てまとめ、中国早期仏像の研究を完成させる構想である。研 究 者:福井県立美術館 学芸員  戸 田 浩 之

元のページ  ../index.html#73

このブックを見る